第23話 不穏な影

学園見学会が終わり玖珂家の一家は,全員で1台の白いワゴン車に乗り帰り道を走る。

ワゴン車は父である玖珂悠馬が運転している。

助手席には母の由佳。爺ちゃん,婆ちゃんと自分は後部座席に座っている。

郊外の国道を走っていると急に鳥肌が立つような感覚がした。

同時に父が見通しの良い場所で路肩に車を停めた。

「どうやら熱烈大歓迎のようだな」

運転していた父が指差す先には,黒い塊のようなものが蠢いている。

すぐさま母の由佳が車を降りる。

「ここは私に任せて」

「ちょっと待て,ここは俺が!」

「あなたは運転手なんだから,いつでも車を出せるように準備してて」

「いや,やはりここは良宣の父として陰陽師として・・・」

「ここは私がやると言ったらやるの」

夫悠馬の言い分は却下して,勢いよく車のドアを閉めた。

黒く蠢いていた塊は,やがて人の姿をとなり,亡者の群れとなりワゴン車を取り囲む。

周囲を見ると亡者の群れがどんどん増えている。

「フフフ・・・誰が操っているのか知らないけど,ケンカを売った相手が悪かったわよ」

九字の印を素早く組む

睡蓮すいれんの陣」

足元を中心にして,直径20m程の大きさの光り輝く巨大な睡蓮の花が咲く。

細長く先端が尖った光り輝く花びらが幾重にも重なる睡蓮の花から,小さな色とりどりの睡蓮の花が空中に溢れ出す。

白,ピンク,黄,オレンジ,青,紫の睡蓮が四方八方へ飛び散る。

睡蓮の花が亡者に当たるたびに亡者達は浄化され消滅していく。

無数の睡蓮の花が亡者達を飲み込んでいく。

「亡者の皆さん。睡蓮の花言葉を知ってるかしら,清純な心,清浄と言われてるのよ。そして古代エジプトでは太陽のシンボルでもあるのよ。と言っても聞こえてないか!」

亡者達はどんどん浄化され消えていく。

「見つけた!」

赤い睡蓮の花がいくつも湧き出して,1か所を目掛けて飛んでいき,赤い睡蓮の花が爆発を起こした。

赤い睡蓮の花は,同じ場所で次々に爆発を起こす。

そこには,厳しい目つきで威嚇する男の姿があった。

頬からは血が流れている。

「羽虫のごときの分際で我に傷をつけるとは,許せん」

「うわ〜キモいな!人を羽虫なんて,芋虫みたいな人に言われると傷ついちゃうな〜」

「芋虫だと!人としての種の限界を超えて進化した我を芋虫だと」

「ごめん,ごめん,、言いすぎちゃったか,その体型だと芋虫じゃなくてダンゴムシだよね」

「貴様!・・・殺す!・・捻り潰してくれる」

男の体に変化が現れる。徐々に牙が伸び始めた。

その時,男の変化を待たずに赤い睡蓮の花が殺到して大爆発を連続で起こす。

爆発が収まった跡には,額に角を1本生やし,牙を伸ばし,身体を3倍ほど巨大化した姿があった。

「貴様,普通は変化の終わりを待つもんだろう」

「エッ〜戦いは先手必勝でしょう。どんな手を使っても勝てばいいのよ,勝てば」

「貴様,鬼畜か・・・」

「鬼に鬼畜と言われる物凄く傷つくな〜」

「・・・うるさい。もういい,魔人へと進化した我力により,恐怖に慄き貴様は死ね!」

赤い炎の槍が10本空中に現れた。

「この炎の槍に恐怖するがいい」

飛翔する炎の槍の前に黒い花びらの睡蓮の花が現れ,炎の槍を全て飲み込んでいく。

「この睡蓮の陣は,完全無欠の攻防一体の陣。その程度じゃ破れないよ」

「バ,バカな・・・そんなはずがあるか。俺は,人間を超えた新たな種だ!ちっぽけな人間を超越した偉大なる存在なんだ!」

空中に先ほどの3倍以上の数の赤い炎の槍が出現し,再び襲いかかってくる。

しかし,全て黒い睡蓮の花に飲み込まれ消えていく。

気がつくと,魔人を名乗る男の周囲に,紫,藍,青,緑,黄,橙,赤,の睡蓮の花が幾重にも連なり周回しながら取り囲んでいた。

「なんだ,これは?」

周回する睡蓮の花に炎の槍をぶつけるが弾かれた。

「魔人となったなら遠慮は不要ですね。魔人となれば人には戻れず,あらゆるものを破壊せずにはいられない。人としての優しさ,愛情,慈しむ心は全て失われ,破壊衝動こそが全てになる・・・・・そこは,いかなる手段を持ってしても脱出不可能な次元の狭間に作られた牢獄の結界。周囲を回っている七色は,太陽の光を表している。太陽の光はこの七色の集合体。つまり周囲を巡る七色の花々は太陽そのもの。この呪術陣は,太陽の光によって全てを滅する呪術陣」

七色の花々は光を発し始める。

「さらばです,魔人よ・・・」

魔人は結界を殴るがヒビひとつ入らない。

「睡蓮 太陽の陣・・・・・滅!」

魔人を閉じ込めた結界は白炎の光を発し,その内側にあるものを全てを焼き尽くし,全てを消滅させた。

「哀れな魂を持つものよ,浄化の炎により逝きなさい・・!」

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