第21話 学園見学会②

玖珂家と道摩家の者たちは,校長フレイヤの案内で校内を回っていた。

生徒や教師の人数に必要な建物の数よりも多い建物が複数あり,さらに敷地は広大な広さがあり,学園の広さがわからないほどだ。歩くのに疲れてきた。

やがて,かなり大きな体育館のような建物にやってきた。

「ここは実技の練習棟です」

扉を開けて中に入っていく。

中で行われていたのは魔法科の生徒の授業のようだった。

「ご存知のように当学園は少数精鋭主義。そのため1学年定員数は50名,魔法科と陰陽師科の2クラス制となります。今の時間,ここを使用しているのは,2年生の魔法科クラスの授業です」

実技授業は水魔法のコントロールをしている。

水をコントロールして動物を作り出し動かすことをやっているようだ。

海外から留学してきた人が多いようだ。

生徒たちは,小鳥を作り出そうとするもの,蝶を作り出そうとするものなど様々に取り組んでいる。やはり,水を完璧にコントロールすることは難しいらしく難航していいる人が多い。

小鳥を作ろうとしているが,小鳥には見えないもの。

空中に魚を作ろうとしているらしいが,どう見ても円柱もしくは魚雷にしか見えないもの。

教師がこちらに気がついた。黒髪で40歳位の細身の男性だ。

左目に黒い眼帯をしている。

「フレイヤ校長。どうされました」

「見学会の生徒の案内ですよ」

「ヘェ〜珍しいですね。校長自ら案内なんて何年振りですか」

「今の安倍家の当主が入学してきた時以来だから・・・20年くらいかしら」

「フフフ・・・なるほど,彼が以前お話にあった期待の新星ですね」

教師は,良宣を見ていた。

「魔法科の講師,ガストンです。よろしく」

「玖珂良宣と言います。よろしくお願いします」

ガストンは良宣を値踏みするかのようにジッと見ている。

「ホ〜。霊力の流れがかなり洗練されているようだ。なかなか鍛えられている。将来が楽しみだね」

良宣は,ガストンの黒い眼帯が気になっていた。大きな傷でもあるのだろうか,だが眼帯からわずかながら魔力が発せられているようだ。

「眼帯が気になるかね」

「いえ・・・すいません」

「ハハハ・・・君だけじゃないよ。初めて会う人はみんな気になるらしいよ。ほとんどの人が聞いてくることだから気にすることは無いよ。これはね,その昔,魔法の実験をしていてちょっと失敗してね,目に傷を負ってしまった。その傷を隠すことと,時折傷が疼くから癒しの魔法陣を組み込んだ眼帯をしているんだよ」

「癒しの魔法陣ですか!」

「作成者は私じゃ無いよ。校長が作ってくれたんだよ。魔道具の作成は苦手でね」

ガストンの言葉が終わると同時にチャイムの音が鳴り響いた。

「オット・・授業が終わりだ。これで失礼しますよ」

一礼してガストンは生徒たちのところに行き,生徒たちを引き連れて校舎に戻って行った。


良宣達も練習棟を出ると校舎に向かい歩き始めていた。

校庭には噴水があり綺麗な水を満たしている。

噴水の水が空中で小さな虹を形作っている。

学園敷地との境には2mほどの壁と壁の内側に木々が植えられている。

地面には落ち葉ひとつ落ちていない。

校庭周辺にいくつもの式神や精霊と思われる気配がしている。

「ここの校庭にはたくさんの式神や契約精霊がいて,校庭を綺麗に保ってくれています」

フレイヤは歩きながらそう言うと

「彼らの役割は校庭を綺麗に保つことだけでなく,外部からの侵入者や不審者の排除も含まれていて生徒たちの学園生活を守っているのですよ」

良宣が一箇所を指差した

「あれは・・・」

小さな精霊が荷物の入った買い物袋を吊り下げて,校舎に向かって飛んでいく姿があった。

「・・・きっと・・・ガレル様のお使いですね・・・・・」

そう呟くと,空飛ぶ買い物袋を追って校舎に入っていく。

校舎の奥まった一室に買い物袋が入っていく。そこには【理事長室】と書かれていた。

フレイヤがドアを開けると理事長ガレルが和菓子を食べていた。

「おや,もう終わったのかい。オッ・・みんなお揃いで。空いているところに自由に座っておくれ」

「精霊や式神を使わなくても言っていただければ私が買ってきますのに,それにアスラは?」

「アスラは隣町まで買い物に行ってもらってるよ」

ちょうどそこに黒いスーツ姿のアスラが戻ってきた。洋菓子の箱を幾つも抱えて。

「何を買って・・・」

「ガレルが隣町で欲しい洋菓子は,ひとつしか無いだろう。レアチーズケーキだよ」

アスラが洋菓子の箱をテーブルの上に下ろす。

「そうそう,このレアチーズケーキは絶品だよ,ふんわりとして滑らかでさらにしっとりとしていて最高だよ」

アスラが皿を用意してくるとひとりでに箱が開き,ケーキが勝手にお皿に乗りお皿とケーキが各自の元へ飛んでいく。

アスラとフレイヤは紅茶の用意を始め,手早くお茶を配り始める。

待ちきれずにレアチーズケーキをパクつくガレル。

「ガレル様,慌てなくてもケーキは逃げませんよ」

「ウ〜ン・・・これこれ・・・美味しいものは一秒でも早く食べたいじゃないか!ところでみんなは学園を見学してどうだった」

「ガレル様,物を食べならが喋るのはお行儀が良くありません!」

「いいじゃない。人目のあるところではいつも威厳のある態度でいるだろう。ここぐらい問題無いよ」

「ハァ〜!まったく・・・」

フレイヤがガレルという子供をあやしているかのような光景だ。

「良宣君,ガレル様の質問に答えてあげてください」

「アッ・・ハイ。校舎は非常に綺麗で,生徒の皆さんも礼儀正しい方たちばかりです。ただ,生徒の人数に対して敷地が広大すぎるように思いますが,何か理由があるのですか」

「へ〜そこに目が行くとはね!・・・まぁいいだろう,それは,ここは封印の地だからさ」

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