第18話 新たなる森の主

自宅に帰ると玄関先でいきなり小さな博多人形のような精霊が現れた。

精霊は、ゆっくりと一礼をした。

『驚かせて申し訳ありません。新たな森の主様の先触れで参りました。この後、よろしければこちらでお会いしたいとのことです』

「・・わ・・わかりました。どうぞおいでください・・」

ばあちゃんの返答に精霊は小さく頷き消えた。

そのまま、急いで自宅に入りリビングへと向かう。

リビングに入った瞬間、身の丈が160センチほどの着物姿の博多人形によく似た女性が現れた。

着物には鮮やかな花々が描かれ、穏やかな笑みを浮かべていた。

リビングにいきなり新たなる森の主が現れたため、リビングでまったりしていた父さんと母さんは大慌てだった。

「いきなりの来訪、失礼します」

「こちらから出向くべきところ申し訳ございません」

婆ちゃんの挨拶に合わせて一同で頭を下げる。

「いいえ、お気になさらずに!シルフが大変ご迷惑をかけました。私がシルフに変わり森の管理を任されました瑠璃姫と申します。瑠璃と呼んでください」

「瑠璃姫様こちらへ」

奥のソファーを指し示す。

「ありがとう」

瑠璃姫は一瞬で奥のソファーへ移動していた。

「シルフと善一郎殿が破壊した森は、修復をさせています。まもなく終わるでしょう」

「こちらの不手際でもあります。申し訳ございません」

「気にしなくてもいいですよ。わがままなあの子にはいい薬です」

そこに、どこからともなくへびつかい座の精霊アクレピウスが現れ、瑠璃姫に紅茶を用意した。

「良い茶葉が入りましたのでどうぞ!」

アクレピウスが紅茶を入れ始める。柑橘系の爽やかな香りが部屋に広がる。

「紅茶にベルガモットの香りをつけたアールグレイでございます」

瑠璃姫は驚きもせずに、出された紅茶を一口飲む。

「香りがよく、さっぱりとしていて美味しいですね」

満足そうな笑顔を浮かべる。

「実際の森の管理は、私の眷属。あなた達の式神の様なものになりますが、眷属の子たちが担います。先程、私の来訪を告げにきた子たちと樹々の精霊達になります。かなり森の隅々まで目が届くでしょう。それと、せっかくですからシルフと善一郎殿が破壊した森の一部に修練所を作りました。その中なら、善一郎殿が大暴れしても周囲に影響を及ぼさないようにしておきました」

「爺ちゃんが暴れても大丈夫なんですか」

瑠璃姫はにっこりと笑みを浮かべ

「大丈夫です。彼のヤンチャぶりはよく知っていますよ。それも考慮していろいろな結界を幾重にも張っておきました。基本、山森神社の陰陽師のみ使用可能とします。その効果は、使ってみてのお楽しみです」

「どんな効果なんですか」

「それは秘密ですよ。最初から教えると楽しみがないでしょ」

優雅にゆっくりと紅茶を楽しんでいる。

「良い紅茶です。もう一杯いただけます」

「ただいまお入れいたします」

アクレピウスが新しい紅茶を入れるとさらに柑橘系の香りが広がる。

「修練所には、眷属を1体置いておきます。使うときはその者に申し出てください。シルフと善一郎殿が大暴れした場所まで行けば案内してくれますよ。それと良宣君、その中なら式神達との疎通がし易いと思いますよ」

「本当ですか」

瑠璃姫はゆっくり頷く。

「さらに、新たな式神との契約もし易いと思いますよ」

良宣は、その言葉に早くもその修練所のことが気がかりとなっていた。

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