第16話 暗黒竜アスラの想い

暗黒竜アスラが封印石から解放されて数日後。

暗黒竜アスラ。体の大きさは自由に変えられ、本来姿ならば数キロにも及ぶ巨大な姿。

だが、1200年にも及ぶ封印にため本来の力が取り戻せていない。

それでも、普通の人間など足元にも及ばぬ力を持っている。

その暗黒竜アスラが若い男性姿で大地に転がされている。

土まみれでボロボロの姿で立ち上がり、魔女ガレルに殴りかかるが、目に見えない膜のようなものに遮られ、弾き飛ばされる。

「やれやれ、君は脳筋なのか?肉弾戦ばかり挑んでくるが他に戦う手段はないのかい?」

暗黒竜アスラは、再びよろける様に立ち上がる。

「五月蝿え!俺にはこれしかねえんだよ・・・」

魔女ガレルに向かい数歩歩いたところで気を失い倒れた。


気を失った暗黒竜アスラは夢を見ていた。

魔女ガレルが異世界の地で彼女を襲った悲劇を見ていた。

そして彼女の心のうちに溢れる想いを感じ取っていた。

悲劇に立ち向かう決断を下す姿と想い。

そのことを批判し、侮辱し、嘲笑う人々の姿。

『そんなことできっこない』『そんなの御伽噺でしょ・・・」と言う友人たち。

『実現不可能なことに無駄な時間を使うな』と高圧的に言う王侯貴族。

『御伽噺を信じるなんて・・・』と馬鹿にして笑う人々。

『ガレルは頭がおかしくなったんじゃないか』と噂する街の人々。

暗黒竜アスラは、幻の人間たちに殴りかかるが拳は全て通り抜ける。

暗黒竜アスラは自分勝手で傍若無人ではあるが、一部の人間の持つ不可能に挑戦する気概は尊重していた。

それよりも自分は何もしないくせに偉そうなことを言う輩を嫌悪していた。

「ふざけんじゃねえぞてめえら・・・」

幻の人々に向かい罵るが当然何も返ってはこない。


見たこともない魔物たちと一人戦う魔女ガレル。

傷だらけになり、ボロボロになりながら魔物を打ち倒して前に進む。

ひとりで苦しい旅を続ける彼女を助けるものは誰もいなかった。

熱風が吹き荒れる熱砂の砂漠では何度も倒れそうになり、1万メートルの氷結の頂では何度も滑落し命を落としかけた。それでも歯を食いしばり立ち上がりひとり前に進む。

「・・・もう十分じゃないか、なんでそこまでできるんだよ・・・もう諦めればいいいじゃないか・・・全てを捨てて楽に生きればいいじゃないか・・・人間なんてそんなもんだろう・・・人間なんて・・」

呟く暗黒竜アスラの目からは自然と涙が流れ落ちていた。


魔の森を走破し、精霊の守る神殿にたどり着き祈りを捧げ願いが叶った瞬間。

上空から睨みつける真紅の瞳。

真紅の瞳から発せられる圧倒的な攻撃。

破壊されていく神殿。

ぶつかり合う精霊の力と真紅の瞳の力。

ぶつかり合う力により歪み始める空間。

歪んだ時空が大きく開かれ、歪んだ時空間に飲み込まれ、時空の間に落ちていく。

それなのに、後悔がなく満足感に満たされた魔女ガレルの心に暗黒竜アスラは驚いていた。

「・・・あんたは気高く、そして優しすぎる・・・」

暗黒竜アスラは、ただのアスラとして魔女ガレルに仕えることを決めた瞬間だった

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