第15 話 異世界の魔女
その昔、魔道士ガレルは、エルセニアと呼ばれる大陸の中央部を目指して一人で旅を続けていた。
大陸中央にあると言われる精霊たちが守る幻の神殿。
そこは、人がたどり着けないと言われる厳しい環境と、魔物たちが巣食う魔の森の最深部にあると言われていた。
辿り着けた者はたった一つだけ願いが叶う、そう言われている伝説の場所。
わずかながら残るたどり着いた者たちの話。
ほとんどがおとぎ話程度しか思われていないが、一つだけ王国の正式な歴史書に記載され真実として語り継がれているものがある。
聖王伝説。人々はその出来事そう呼んで語り継いできた。
300年前、大陸中が群雄割拠で多くの国や諸侯が争い、さらに多くの魔物が現れ、大陸中が地獄のような有様であった時代。魔の森から出てきた魔物が街を襲い、弱った街を他の街の者が襲う、力の弱い者は打ち捨てられ死んでいく。多くのものを失い、多くの絶望を味わったある弱小諸侯である若者が、たった一つの願いを胸に旅を続けそしてたどり着いた。
若者は、神殿でひざまづき願いを言う。
『この世界から戦いを無くし、人々が助け合って生きていける世界にし欲しい』
すると若者の耳に聞こえてきた。
『大きな争いはなくせるが小競り合いは残る。そこでよしとせよ!・・・・・・・・・』
若者は故郷に帰ると次々に人々が力を貸し、大きな勢力となり、やがて大きな国となり、大陸から乱世が終わった。
願いには大きな代償が求められた。若者は迷わず己の全てを差し出すといったが、告げられたのは、生涯自分の子は残さず、清貧を貫けとの言葉だった。その言葉を守り、彼は生涯を終えた。
魔道士ガレルは大陸屈指の魔道士。彼女は一人で旅を続けていた。
得意の魔法を駆使して敵を倒し、格上の魔物達を死に物狂いで倒し進んでいた。
命の痕跡すら無い熱砂の砂漠を走破し、標高1万メートルの氷結の頂を乗り越え、一人突き進む。
何があろうと諦めるわけには行かなかった。
彼女には3歳になるたった一人の息子がいた。父親は子供が産まれてすぐに不慮の事故で亡くなっていた。残されたたった一人の息子が呪いを受けた。それは魔界の呪い。手を尽くし解呪の方法を試したが解呪できず。古文書を調べたが解呪の方法は見つからなかった。
残された時間は半月を切っていた。
彼女は最後の賭けにでることにした。
息子に時空魔法をかけ、時を止める。限界は1年。
この1年以内に精霊の守る神殿にたどり着く。
それしか手立ては残されていなかった。
多くの人々が無謀だと言った。
そんなものはお伽噺だと言った。
祖母に息子を託し、引き止める多くの人々を振り切り旅に出た。
そして、タイムリミットまであと3日のところで神殿にたどり着いた。
すぐさま神殿で跪き願う。
『息子を救ってください。かけられた呪いを解いて救ってください』
すると周囲が光に包まれる。
『たった今、呪いは解呪された』
涙が溢れてくる。涙が止まらない。
その時、激しい怒りの声が鳴り響いた。
『精霊共、余計なことをするな!全てを台無しにしおって』
空に黒い空間の裂け目のようなものが現れた。
そこには、真紅の瞳が一つ地上を見下ろしている。
真紅の瞳から放たれた漆黒の球体が次々に神殿を襲う。
同時に光の結界が神殿を包む。しかし、圧倒的な物量のためやがて結界にヒビが入り、そして結界が破られた。
倒れる柱、。巻き上がる煙。対抗する精霊の力。
ぶつかり合う二つの力が時空の歪みを生じさせ始めた。
その時空の歪みは広がり周囲の物を飲み込み、やがてガレルを飲み込んでいった。
時空の歪みに飲み込まれどこまでも落ちてく。
だが、彼女は悲壮感や絶望感は無かった。
愛する家族を救えたことに満足していた。
ガレルは森の中で小鳥たちの鳴き声で目を覚ました。
周囲を見渡すと見た事もない植物が溢れていた。
やがて周囲の精霊たちが集まってきた。小さな精霊たちが物珍しそうに周囲を飛び交う。
子供ほどの大きさの精霊が現れた。
「ようこそ!異世界のお方」
「異世界?」
「そうです。ここはあなたがいた世界とは別の世界。数100年に一人程度時空の歪みに巻き込まれ異世界からやって来ます。逆にこちらから他の世界に行ってしまう方もいるようです。大半の方はすぐに死んでしまいますけど!」
「・・・異世界・・・私は元の世界に戻れるの?」
「それは、無理でしょう。数えきれないほどある異世界。さらに時間軸を考えればまず不可能でしょう。たとえ元いた世界にいけても数千年もしくは数万年は時間軸がずれるでしょう。それに、時空の歪みに巻き込まれたら精神が崩壊してもおかしくない。あなたが正気でいられたのが奇跡でしょう」
「・・・・・」
「あなたは特殊な状態にあるようです」
「・・特殊?・・」
「ハイ!加護と呪いが入り混じった状態であり、それが原因なのか不老となっているようです。つまり老化しない。歳を取らない」
「・・・不老・・・」
「不老と知られれば、その謎を解明しようと付け狙われるでしょう。この世界の人間の大半は我欲の亡者ですが、少しですが素晴らしい人もいます。滅多にいませんがあなたのような不老の種族もいます。見つけ出すのは難しいですが・・・」
『これが、私が受ける代償なのかもしれない・・・』
自らを代償として臨んだ神殿での解呪、それなら泣いても始まらない。愛する息子を救うために全てを捨てるつもりだったのだ、受け入れるしかない。
ガレルは、悲しみややるせ無さをすべて心の奥底に押し込め生きていくことを決めた。
どうやら魔法は変わりなく使えるようだ。
手のひらを空にむけ
「ファイヤーボール!」
手のひらから火の玉が飛び出し、上空を駆け登っていった。ガレルの新たな旅立ちの決意を示すように!
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