第14話 魔女からの招待状

玖珂沙織は、ソファーに座り届いた手紙を読んでいた。

封筒には、玖珂沙織の名前のみが記されている。

この手紙は誰も知らぬ間にいつの間にか部屋に置かれていた。

玖珂沙織の向かいには孫の良宣がコーヒーを飲みながら座っている。

「婆ちゃん、その手紙は何・・・封筒には住所もなく名前だけしか無いし・・・」

「・・・ちょっとした昔の知り合いさ・・・まぁ、めんどくさい奴というか・・気まぐれなやつというか・・・」

「ヘェ〜」

「はっきり言って迷惑なヤツだよ」

渋い表情をしながら呟くと、手紙が淡い光を放ち、魔法陣が浮かび上がる。

魔法陣から立体映像が出てきた。

「ヤッホ〜沙織ちゃん久しぶり!麗しの魔女ガレルちゃんで〜す!迷惑なヤツなんてひどいな〜」

ブロンドの髪を腰まで伸ばし、赤いドレスの受けから黒いローブを纏っている姿が浮かび上がり話し始めた。

「沙織ちゃんが困っているときは、いつも助けてあげてるじゃない!」

「ハァ〜・・・助けてもらったこともあるが、それ以上の面倒ごとも持ち込んで来るじゃないか。

差し引きすればマイナスが多いじゃないか・・・」

「エ〜・・・そこは持ちつ持たれつと言って欲しいな〜」

「それより何の用だい」

「う〜ん・・特に無いけど、あえて言えば暇だから、たまには沙織ちゃんとお茶しようかなと思って・・・」

「・・・わかった。明日でどうだい」

「いいよ!待ってるよ」

急に良宣の方に向き

「君が沙織ちゃんの自慢の孫だね!明日一緒に来な!」

「爺ちゃんは?」

「ウ〜ン・・・善ちゃんは来なくていいかな・・・暴走すると面倒臭いし。じゃ、待ってるよ」

魔法陣は消えて、立体映像も消えた。

部屋の外で会話を盗み聞きしていた善一郎がガックリと崩れ落ちていた。



沙織と良宣がとある森の入り口に立つ。

森の入り口には山森神社の小さな分社があった。普段は無人で時々神社の職員が掃除などに訪れているとのこと。人は居ないけど、式神はいるそうで異常がないか監視しているそうだ。

神社の横を抜けて、森の中を進んでいるとやがて霧が出てきた。

ここは通称迷いの森。霧が出ることが多く、迷いやすいと評判の森だ。

1年中霧が出ていると言われるくらい霧が出ることが多いと言われている。

霧が出てきた中をかまわずにどんどん進んでいく。

霧が出てきた森は急に鎮まり、鳥の鳴き声すら聞こえない。

「良宣、何か違和感を感じないかい・・どうだ、わかるかい」

「エッ・・・ウ〜ン・・・何だろう・・・言われてみると微かに違和感があるような感じだけど」

良宣は首を傾け

「どう違和感があるのか、何に違和感を感じるのかと聞かれるとわかんない。答えられないよ・・・」

良宣の答えに沙織は満足気な表情を浮かべ

「普通は、そう言われても違和感を感じられない。腕利きの陰陽師でも違和感を感じることはできない。そうゆう所なんだよ、ここは・・・。ここではっきりと分からなくても微かな違和感を感じ取れることはすごいことなんだよ。」

再び歩き出す沙織の後ろをはぐれないように良宣は後をついていく。

霧はどんどん濃くなっていく。

必死に見失わないようにすぐ後ろをついていく。

すると、急に霧が晴れ、西洋風の屋敷が現れた。

「エッ・・・こんなところにこんなに大きな屋敷が・・・」

「いいかい、この屋敷の周囲には、幾つもの結界が重層的に組まれていて、普通は近づくことも

できないし、屋敷の存在を知ることもできない。迷ったあげく、気がつくと町に戻っている」

「だから迷いの森なんだね」

「迷って死ぬヤツが出ない様に式神が監視していたり、方向感覚に働きかけてやって来た道を戻るような呪術陣や、人の存在を感知する感知式の呪術陣などを張ったりしてあるから、まず、迷って死ぬことはないね」

屋敷のドアが開き、一人の人物が出てきた。見た目30代半ばぐらいで黒髪をオールバックで固め、黒のスーツを着ている。

「沙織様、良宣様ですね。私はガレル様に仕えているアスラと申します。主人がお待ちです。中へどうぞ!」

沙織に会釈し、続いて良宣を見た瞬間、目を見開き驚く表情をした。

「どうかしましたか?」

自分を見てなぜ驚いた表情をしたか分からず戸惑ってしまった。

「申し訳ございません!お若いのに相当な霊力をお持ちのように感じましたので思わず驚いてしまいました」

アスラは頭を下げる。

「そうですか、自分はまだまだですよ、婆ちゃんや爺ちゃんにはまだ敵わないですから」

沙織はちょっぴり嬉しそうな表情をした。

「では中へどうぞ」

屋敷の中に入り、アスラの後をついて行くと奥の両開きのドアまで進み、両開きのドアを開けた。

「どうぞ」

促されて部屋に入ると、立体映像に出ていた人がいた。

なぜか、人をダメにするソファーに座っている。

「これ最高!一度使ったら手放せないわ〜」

「なんでそれを使っている」

「昨日、映像の魔法陣で沙織ちゃんとお話しした時に見えたの、これはきっといいもに違いないと思ってアスラに買ってきてもらったの!」

「この近隣には売ってないはずだぞ」

「売っている場所さえわかれば、距離は関係ないわね。車ぐらいの大きさであれば軽く運んでくれるし」

「イヤッ・・・車は簡単に運べませんよ」

良宣は流石に無理だと言うが

「フフフ・・・出来るんだな〜知りたい。知りたいでしょ。知りたいよね・・・」

ガレルは身を乗り出すように話してくる。

「そんなこと聞かんんでもいいわ、呼んだ訳を離せ」

「エ〜沙織ちゃんは興味なくても良宣君はあるよね。彼は君と浅からぬ因縁があるんだよ」

「・・・因縁?」

「そっ!彼アスラは、君が前世でコテンパンにぶちのめした相手なんだよ」

「・・・前世でぶちのめした???」

「暗黒竜アスラ。それが彼の正体さ!ネッ!そうだよね」

魔女ガレルはアスラの方を向く

「ハ〜!やれやれ・・・・。その昔、俺をコテンパンにぶちのめした奴の霊力の波動と、良宣と名乗るその子の波動はまったく同じだ。自分をぶちのめした相手は間違えねえよ!勘違いするなよ、今更お前さんに復讐とかするつもりは無いぜ、あの頃よりのさらに強力になってやがるから自分じゃどうやっても勝てん。勝てない喧嘩はしない!」

良宣は思い出していた。そういえばあの時代、皇帝陛下の命を受けて暗黒竜退治をやらされたっけ、かなり巨大だったんだよな!しかもいくつもの街を破壊しまくっていた奴だったなあ。

でも、確か消滅したんじゃなかったか?

「まあ、前世のことだからお前さんは覚えてないだろうが、あの時は力のほとんどを使い擬態の偽物を作り出して、姿を隠してやっとの思いで日本に逃げてきたら、今度は空海とかいう坊主に弱っていたことを見破られて封印されちまった。本当についてなかったぜ」

覚えてますよ!しっかりと!しくじった。擬態か〜!詰めが甘いな。今度は気をつけないとね。空海さんか懐かしいな。彼が日本に帰る時に見送ったのが最後だったな。

とりあえず、前世のことはわからないことにしておかないとだ。

良宣は首を傾け

「いまいち何のことか分かんないですけど・・・」

「そりゃそうだ。前世の記憶なんて完全に思い出せる奴なんていないからな」

ここに、目の前にいますよ!良宣は心の中で呟いていた。

「でもなんで魔女の使用人みたいなことになっているのですか」

「封印から出してもらったことと、戦ってコテンパンに負けたからだ」

「エッ!また負けたんですか」

「ウグッ・・・または余計だ。魔女ガレルは特別だ。彼女の技術はこの世界の理とは違う。

古の魔女ガレルは、正確には異世界の魔女ガレルだ」

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