第13話 森の主、精霊シルフ襲来 〜暴走〜

はいらずの地、森の主精霊シルフは非常に不機嫌だった。

「まったく・・何なのよあいつ!!!」

小鳥達は、いつもならシルフのまりを飛び交っているが、今日の機嫌の悪さに恐れをなして近寄らない。皆、遠くから様子を見ている。

「この僕がせっかくこの森の中で修行してもいいと許可してやったのに、あれから一度もこないじゃないか!!!僕を馬鹿にしているのか!!!」

目を瞑り、眉間にシワを寄せ不機嫌極まりないと言わんばかりの表情。

「そっちがその気なら・・・・・」

そう呟くと街に向かって一直線に飛ぶ始めた。



善一郎と沙織夫妻は、ふわふわ柔らかで体にフィットするソファーで寛いでいた。

通称人間をダメにするソファー。今一番のお気に入りだ。

「どうじゃ!わしの買い物にハズレはないじゃろう」

「いつもは、販売員の口車に乗せられて、マトモに扱えない物ばかり、ロクでもない物ばかり買ってくるくせに、このソファーに関してだけは、いい買い物だと認めてあげるよ・・・」

「・・・ロクでもないものばかりとは酷い・・・ムッ、イカン。とんでもないものが近づいてくる気配じゃ!」

「・・・こいつはヤバい・・・」

二人はソファーからすぐさま立ち上がり、一気に駆け出し森へと向かう。

人目も気にせずに式神の力を使い全力で走る。

二人の姿を見て驚く、山森神社の陰陽師職員達。

聞こえる声を全て無視してトップスピードで走る。

善一郎は式神白虎。沙織は式神朱雀を使い急ぐ。

森に10kmほど入ったところで、シルフと遭遇した。

善一郎と沙織、そしてシルフは動きを止め睨み合う。

「どけ!老いぼれども!」

「退く訳にはいかん。森の奥に帰ってくれ」

「あんたを、ここから先に行かせる訳には行かないよ」

わずかに口角を上げるシルフ

「僕に勝てるとでも!」

「久しぶりに会ったかと思えば・・・やれやれ、血の気の多い精霊じゃ、勝ってみせるさ」

「へ〜!今まで一度も勝ってない連中が大きなこと言うじゃない」

「こっちも色々あるから、ある程度力を抜いていたんじゃ、押し通るなら全力で止めるまで!その結果、森が更地になっても文句言わんでくれ」

「フン!心配無用だ。僕の力があればあっという間にすぐさま再生できる。あえて言えば君の頭に髪を生やすように簡単なことさ」

その言葉に驚愕の表情をする善一郎。

「・・・何じゃと・・・」

「おやおや、やっと力の差がわかっったのかい」

「お主・・・髪をはやせるのか!!!・・・本当にはやせるのか!」

善一郎の言葉に呆気に取られるシルフと沙織。

「エッ・・・爺さん何言ってんの・・・・・」

「エッ・・・簡・・簡単だけど・・・・・・」

「よかろう!不肖、玖珂善一郎全力で参る。全身全霊を尽くし、そして、勝ってフサフサの髪を手に入れて見せよう。そして、再び夏のビーチで・・・・・」

完全に目的を間違えたまま妄想に浸り拳を握り、目を細め熱く呟く善一郎がいた。

そして目をカッと見開き

「いくぞ!雷装雷撃呪」

黄色の光を纏ったかと思えば一瞬にしてリリーの前に移動。拳に纏う雷撃を放つ。

「ウヮ・・・危ない危ない」

シルフが間一髪で避けると、立っていた位置から後ろの巨木が轟音をたて10本近く倒れている。

「逃さんぞ!」

雷を纏ったまま回し蹴りを放つ

轟音をたてて周囲を破壊する雷撃

これも間一髪避ける

「ハッハハハハ・・・やるじゃない・・昔より少しは腕を上げたかい」

「フッ・・・ぬかせ!」

善一郎が次々に繰り出す雷撃を纏った拳と蹴りを、ことごとく躱し大きく距離をとる。

二人が戦う空間の中は、どんどん更地になっていく。

巨木の生い茂っていた森が信じられない速さで更地になって行く。

「そんな鈍い拳や蹴りなんて当たる訳無いだろう」

「フッ・・・仕込みは終わった。鎖縛呪」

大地に光る陣が現れ、光る陣から現れた蔦がシルフを一瞬にして縛り上げる。

「ヘェ〜・・・やるじゃない!」

「悪く思うな。これで終わりだ」

拳を振り上げ殴りかかる寸前で善一郎は吹き飛ばされた。

善一郎が地面を転がされると同時にシルフを縛り上げていた蔦は、粉々に切り刻まれ消滅した。

そして、爆風が善一郎を襲い、周囲の森諸共吹き飛ばし破壊する。

「やっぱり、耄碌してるんじゃないか!君は昔、僕のことを風のシルフと呼んでいたよね。そのワケを忘れたのかい」

左右に小型の竜巻が現れていた。小さいが秘めている破壊力は尋常ではないことを感じさせる。

「これで決着を・・・」

シルフが言いかけた時、沙織のゲンコツが脳天に炸裂した。

「いい加減にしな!」

「何をする。お前も・・・」

「理々姫に報告させてもらうよ!」

「エッ!・・・それはチョット・・・」

「何言ってんだい。これだけ暴れたらアンタの主であり、この神域の主でもある理々姫の使者金龍がやって来るよ」

「・・・・・」

「アッ・・・もう来たよ。ご愁傷様」

山々方向から空を飛んでやってくる金龍が見えてきた。

身の丈10mほどの大きさ。実際はもっと巨大らしいが人には見せないらしい。

破壊された森、転がっている善一郎、そして、シルフと沙織を見ながら

「これは何の騒ぎだ」

「・・それは・・その・・・」

どう答えようか迷っているシルフを無視して、沙織が答える。

「この馬鹿精霊が暴走しかけたところを、私らで抑えようとしたら戦闘になっちまった。さらにこの馬鹿精霊とうちのポンコツ爺さんは、両方とも口で言うほど手加減てやつができん。致命的なまでに手加減ができん。この二人が暴れた結果がこの有様だよ」

「この二人が致命的なまでに手加減ができず、ポンコツぶりをすぐに発揮するのはよくわかっている。わしもお前も、それで数えきれないほど泣かされたであろう」

「・・それは、いくらなん・・・」

シルフが何か言おうとしたところで金龍が怒る。

「黙れ!これより森を修復を行え。その後、ワシの下で1年間の謹慎教育!延長もありだ」

「そんな・・・」

「異論は認めない。姫の裁可は頂いてある」

項垂れるシルフ

「沙織、あのポンコツは、いつものようにお前に任せる」

「承知しました」

「森の管理をこなう森の主は新たなものを任命するとの姫の方針である。決まり次第挨拶に行かせる」

「ありがとうございます」

金龍の監視の元に森の修復をこなうシルフを横目に、沙織は善一郎を縛り上げて引きずりながら帰っていった。

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