第8話 依頼

婆ちゃんから陰陽師としての仕事に行くから一緒に来るように言われ、一緒に車に乗り込んだ。

運転手は、山森神社職員であり、女性陰陽師でもある田中さん。

ショートカットの髪型にスーツを着こなし、どこから見てもバリバリのキャリアウーマンだ。独身で30歳半ばらしい。詳しくは聞けない。以前聞いたら物凄い圧力と目力を向けられた。

世に中には触れてはいけないものがたくさんあることをこの時に知った。

陰陽師になる人は、だいたい陰陽師の家系の人が多いが、田中さんは全くの一般人の家系。

陰陽師なんて縁もゆかりもない家だが、ものすごく陰陽師に興味があって伝手をたどってたどって婆ちゃんに弟子入りしてきたそうだ。

才能があったらしく、山森神社職員の中でもかなりの実力者と言われている。

1時間半ほど車を走らせると大きな屋敷の前で車は止まった。

周辺は民家は無く、森の中のお屋敷。

車を降りると屋敷から家人と思われるスーツを着た若い男性が出てきた。

「玖珂様、お待ちしておりました。主人がお待ちです。こちらへどうぞ」

男性の案内に従って屋敷に入っていくと、屋敷の中はクラッシックな作りで落ち着いた雰囲気。

部屋のドアを開けて

「こちらでお待ちください」

中に入り、ふかふかのソファーに座るとすぐさまお茶が出された。

しばらくすると、着物姿の男性が入ってきた。もう70歳くらいの感じがする人だ。

「久しぶりだね沙織さん。わざわざ来てもらってすまない」

そう言って頭を下げた。

「暇を持て余していたからちょうどよかったのさ。気にしなでおくれ」

「遠いとこと来てもらってすまないが早速だが見てもらいたいものがある」

「陰陽師の名門道摩家の当主である道摩玄星が手に追えなものがあるのかい」

苦い表情をしながら

「とにかく見てから意見が欲しい。こっちだ来てくれ」

玄星は立ち上がり部屋を出て屋敷の奥へと向かう。一同は玄星の後を遅れずに着いていく。

奥まった部屋の前で立ち止まり、ドアをノックするとドアが開いた。

中に入っていく玄星に続いて部屋に入る。

「紹介しよう息子の道摩流星と息子の妻の涼子だ」

2人とも軽く会釈をした。

「そして、ベッドで眠っているのが孫の麗奈だ」

かけ布団で姿は見えないが誰か寝ているのはわかる。

玄星が目配せすると流星がかけ布団を捲る。そこには、痩せほそり精気が無く、左腕と顔に包帯を巻いている女の子がいた。目はうつろで誰も見ていない。

歳は良宣とさほど変わらないように思えた。

そして、顔と腕の包帯を取り始めた。包帯を外したそこには人の顔が浮かび上がっていた。

「珍しいね。人面呪だね」

「ああ・・・人面呪だ」

「婆ちゃん、人面呪て何?」

「簡単に言ってしまえば強烈な呪いのせいで、体に人の顔が浮き出てくる呪いさ。人面呪に精気を徐々に食われて衰退していき死にいたる呪い。さらにこの呪いはとてもしつこいのさ。だが、人面呪は珍しいが、玄星あんたなら苦もなく払えて処理できるだろう」

「過去に何度か払ってきたが、これは、何度やっても払えない。一瞬消えるがすぐに浮き出てくる。ワシが衰えたのかとも思い、流星他腕利きの門人たちを集めて挑んだがことごとく失敗した。一度は消えるが、すぐさま人面呪が浮き出てくる。もはやどうしていいか分からん。この子が苦しんでいるのに何もできん。ワシは無力だ」

玄星は手を強く握りしめていた。

「頼む。この子を救ってくれ!ワシが知る限り出来るとしたら沙織さん貴方だけだ」

深々と頭を下げる玄星と流星夫婦。

「あまり期待されても困るが、やるだけはやってみる。良宣。私がこれから払いの呪を上げる。

お前は霊気の動きを見張りなさい。修行でやった通りしっかりとみるように!」

「わかったよ」

「おかしな動きがないかよくみるんだよ」

良宣が頷くとすぐさま精神集中を始める。

そして、九字の手印を結び始める。

「臨兵闘者皆陣列在前」

続いて霊符を手にして病魔を祓う九字に変える

「令百由旬内無諸衰患」

何度も病魔を祓う九字の呪を上げ

「急急如律令」

霊符は、白く光りながら人面呪へ向かい。霊符が人面呪に触れた瞬間、人面呪は苦しそうなうめき声をあげ消滅した。

だが、数秒後に笑い声を上げて人面呪が復活した。

絶望的な表情をする道摩家の人々

「良宣。霊気の動きはどうだい?」

「霊符が当たった瞬間、確かに人面呪は消滅しているよ。だけど、時が巻き戻ったかのように瞬間に元に戻っている」

婆ちゃんは少し考え込んだのち玄星に声をかける

「玄星、ひとつ試したいことがある」

「まだ、何か手立てがあるのか」

「これから目にすることは一切他言せぬことが条件だ。玖珂の秘密に属する」

「何か手立てがあるなら頼む。条件は当然承知する」

「良宣。お前の式神を呼び出しなさい。お前の式神なら可能性はあるかもしれない」

「人前でいいの?」

「私が許可する。構わないよ」

「アクレピウス!」

良宣の呼び声に応えるように

「お呼びですか良宣様」

優雅な一礼をしてへびつかい座の精霊アクレピウスが現れた。

アクレピウスを見て驚愕する道摩家の人々。

その圧倒的な霊力と格の高さ。普通の式神では無いことは一目でわかった。

「アクレピウス、この呪いはわかるかい」

アクレピウスは人面呪に目を向けると

「フム・・!これは、人の扱う呪いではありません。魔界の呪いです」

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