第7話 お祭り騒ぎ

山森神社の参道は広く造られている。今日は、年に4回行われる祭祀が行われる日であり、そのうち春と秋には広い参道に露天が並んでいる。

無用なトラブルを避けるため、昔から地元の商店が中心になって露天を出している。

べっこう飴、リンゴ飴、お好み焼き、焼きそばなどが立ち並び、いい匂いをさせている。

すぐにでも露店巡りしたいが、先にやらねばならぬことがある。

童子舞いを舞わねばならない。神楽舞いの前に15歳以下のものが童子舞いを舞うしきたりがあるため自分も何度かやらされたことがある。

神主衣装に着替えさせられ待機中のところに婆ちゃんがやってきた。

「良宣、なかなか様になってきたじゃないか、舞いは大丈夫かい」

「大丈夫だよ。何度もやってきたから覚えてる」

「よし、なら今回はひとつ課題をつけよう」

「課題?」

「良宣ならば簡単にできることさ」

「・・本当に簡単なこと?」

「童子舞いを舞っているとき、手の先や足の裏に軽く霊力を込めること」

「霊力を込める?」

「そう!軽くだよ!軽く!」

「霊力を込めるとどうなるの?」

「それは、終わってからのお楽しみさ!さあ、行っといで!」

促され臨時舞台にむかっった。舞台袖には既に、太鼓、笛、笙など演奏者が待機している。

舞台中央に進んで待機すると、楽器の演奏が始まった。演奏に合わせ舞を始める。

『手や足に軽く霊力を込めろと言われてたよな・・』

手や足に軽く霊力を込めて舞っていく。

『あれ・・霊力で空中に陣が造られていく』

人の目には見えない空中に、立体的な呪術陣が手足の動きに沿って形成され、さらに複層的に形成されていく。

童子舞いが終わると同時に呪術陣は完成し、呪術陣は大きくなっていき、舞台より少し大きくなって拡大は止まり、周辺に穏やかな霊力の風を送り始めた。

風をうけたもの達は幸せそうな表情を浮かべている。

『これは、浄化の風か』

呪術陣から発する浄化の風は山森神社入り口まで届き、神社敷地内にいるすべての人たちが身にまとう不浄な思いや邪気をことごとく浄化していく。

舞台から降りるとニコニコ顔の婆ちゃんが待っていた。

「これほどの呪術陣を形成できるとは、さすが私の孫だよ!」

「婆ちゃんこの呪術陣は何?浄化のようだけど」

「本来童子舞いは、霊力の弱い子供が舞うから神楽舞いの前座扱いで、舞う子供を邪気から守る舞いなんだよ。その舞いでここまでの霊力を出すとは想像を遥かに超えているよ・・・おそらくこの神社の敷地全てに浄化の風が行き渡ってる・・・この呪術陣は当分の間消えないね」

「当分の間というとどのくらい」

「そうだね、この強さだと半年は残りそうだね」

「半年!」

軽く霊力を込めた。本当に軽くだ。それなのにここまでの威力を出すなんて、背中に冷たい汗が流れそうだ。

「若!」

自分を『若』と呼ぶ声に振り向くと、父の元舎弟。現在、母の舎弟ともいうべき男達がいた。

「若!さすがです。感動しました」

「さすが、姉御の息子さんです」

「舞いを見てこんなに感動したのは初めてです」

男達は口々に称賛するが、正直、若とか姉御とかどこの組事務所だよと言いたくなる。

周囲の人々からの視線が痛い。とりあえず無視する訳にもいかないため

「ありがとうございます。もっとしっかりと精進していきます」

無難な言葉ですぐに退散しようとしたら

「オォォ〜!素晴らしいお言葉!」

「感動です!」

「そのお歳で、格が違います!」

ますます周囲の視線が痛い。本当に視線が痛い。

逃げるように社務所へと走った。

ダメだ。今回は露店巡りは諦めよう。

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