第6話 家族会議

陰陽師と並ぶ玖珂家のもう一つの仕事、それは神社の宮司である。神社の名は、山森神社と言い500年の歴史を誇る。【はいらずの地】と呼ばれる森と山々を含む広大な神域を管理し、季節ごとの祭祀もある。

婆ちゃんが怒っているのは、もうすぐその祭祀がやってくるのに、めんどくさいからと祭主たる爺ちゃんが全て放りだして逃げたからである。もうすぐというが祭祀前日である。

そうなると誰かがそれをやらねばならない。良宣の両親である父の玖珂善一郎と母の由佳がその被害を受けた。

良宣の母の玖珂由佳と父の玖珂悠馬は、まさに目の回るような忙しさの中、山森神社の職員達と共になんとか準備を終えた。山森神社は少なからず職員がいる。皆陰陽師である。

人手が足りない時は、式神をフル動員で対処するのはいつものこと。

人がいないのに物が空中を飛び交い次々に移動してる。

さらに、受付にいる巫女さんさんに影が無い人がいたりする。

知らない人が見たら卒倒しそうだ。いや100%卒倒する。

山森神社の広い一室に家族及び山森神社職員が集合した。

みんなの視線は当然、玖珂家の爺ちゃんこと玖珂善一郎に注がれている。

娘の由佳が口を開く

「お父さん、何やってるんですか。こんな忙しい時に仕事をほっぽって!」

「ワシは、次代を担う良宣をしっかり鍛えるという重要ミッションを遂行しておったんじゃ」

「こちらの仕事が終わってからでもできますよね」

「刻は待ってはくれん!」

「こっちの刻はもっと切迫してますよ」

「・・・そこは2人でうまくやっくれれば・・・」

反省の色の無い答えに静かに聞いていたばあちゃんがキレた。

「ハァ〜、あんた、何言ってるんだい。なら、罰として今日から1ヶ月間あんたの大好きな酒を禁酒することを命じます。白虎!聞いていたかい、このアンポンタンが酒を飲もうとしたら私に教えな!それと仕事をサボろうとした時も知らせな」

「ハッ!この白虎しかと賜りました」

式神が大柄な体をした男として現れ、一礼をした。

「チョット待て。白虎はワシの式神でワシが主じゃろう、なぜ婆さんのいうことを聞く」

「主たる善一郎様と玖珂家の安寧にためには、大奥様の意思を優先することが重要でございます。主様が大奥様に逆らえるなら別ですが?」

「・・・そ・それは・・・無理じゃ!」

「朱雀出ておいで」

婆ちゃんの式神が細身の女性の姿で出てきた。

「白虎と共に爺さんを監視して、きっちり仕事させな。サボったらすぐに報告!」

「承知しました」

「爺さんあんたはしばらく、良宣に接近することは禁止。仕事をサボればさらに延長するからね」

「そんな・・・」

項垂れた爺ちゃんは、式神の白虎と朱雀にドナドナされて行った。


「さて、爺さんはしばらくこれでいい。次の問題は・・・」

一堂の視線は、良宣と式神アクレピウスに注がれる。

「ハァ〜。どうすれば簡易式式神の呪符でこれほどの高位の精霊を式神にできて、同時に契約までできるだよ。普通はありえん」

婆ちゃんは呆れるように呟く。

にこやかにたたずむへびつかい座の精霊アクレピウス。

その姿はまさに一流の執事であり紳士である。

いま、優雅な所作で皆の分の紅茶を用意している。

「紅茶が用意できました。どうぞ、お召し上がりください」

素早く紅茶を配っていく。

「こりゃ旨い」

良宣の父悠馬が驚きの声を上げる。

五分刈りの頭でちょいワルイケメン親父だ。元々他の陰陽師の家系なんだがそれが嫌で若い頃は、ヤンキー連中をまとめてブイブイ言わせていたらしいが、若かりし頃の母さんに仲間もろともにコテンパンにのされたとか。

あまりの桁違いの強さに父さんは母さんの強さに惚れて、遂に婿入りまでしてしまった。ただ、仲間達はトラウマになるほどの恐怖だったらしく、それが今でも尾を引いて母さんのことを恐れを込めて『姉御』と呼んでいる。社務所の受付で母さんを『姉御』と呼ぶ声があるが、どこの世界の事務所なんだといつも言いたくなることがある。

「結果オーライでいいじゃないですか!さすが私の息子よね」

母の由佳は満足げに紅茶を飲んでいる。

巫女さん姿で良家の子女のように優雅に紅茶を飲んでいるその姿からは、想像もできないほどの武闘派。

爺ちゃんが徹底的に武術を仕込んだせいだと婆ちゃんが嘆いていたっけ!

体術、武術の戦いでは、婆ちゃんも呆れるほどの強さと噂されているらしい。

「由佳、いいかい、良宣が潜在的に秘めている霊力が尋常でないから問題んだよ。うっかり暴走させたりしたら何が起こるかわからん。良宣!陰陽術の練習は必ず爺さん以外の山森神社の者がいるところでやること!いいね!」

「ウン、わかったよ!でも爺ちゃんはダメなの?」

「さっきも言った通り、当分の間良宣に接近禁止だからね」

「大奥様、良宣様のそばにはこのアクレピウスが控えております。大概のことは問題なく対処可能と推察いたします。」

「・・・それもそうだね。これほど精霊が忠誠を誓ってくれているんだ。大丈夫かね!」

「それと、今回私が星の精霊として初めて人と契約したことで、他の星の精霊達も良宣様に興味を持ち契約を待っているものが多数おります。時期を見て随時お願いしたと思います。他の星の精霊達からお前ばかりズルいとかなり言われておりますので!」

「やったーまだまだたくさんいるんだね」

すぐにも式神契約をやろうと勢いづくが

「まず、呪符を勉強してからだよ、今回はまぐれみたいなもんなだよ!いいね!」

「・・ハイ・・」

「よし、さあみんな、仕事に戻りな」

集まったみんなは仕事へと戻っていった。

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