第5話 修羅場

今日は、朝から武術の訓練だ。陰陽師は必要ないでしょうと言ったら爺ちゃんに怒られた。

体力や筋力はすべての基本だと言われた。

腕立て伏せ、スクワットをやらされ、そして、いま走り込みをやらされていた。

「良宣、あと5周じゃ!」

「・・エ〜!マジかよ・・・」

走り続けてヘトヘトだった。中学生2年の良宣の体力は他の中学生とさほど変わらない。

爺ちゃんこと玖珂善一郎は修行にとなると人が変わる。

普段は、孫である良宣には超々々激甘なのに、一度修行となると人が変わる。まさに修羅のごとき鬼の如き厳しさになる。

ようやく、走り終わって仰向けに倒れて荒い呼吸を整えていた。

「良宣!自分が疲れたからあと5分待ってくれと言ったら敵が待ってくれるのか?待ってはくれん!逆にここぞとばかりに攻めてくるぞ!陰陽師は霊力や呪符の操作技術も大事だが、最後にものを言うのは体力であり、苦しさを乗り越えてきた精神力だぞ。苦しさを乗り越えてきた精神力のない奴はギリギリのところで逃げる。逃げたらそれ以上の相手には立ち向かえない。そしてひたすら逃げるばかりになっていき、やがて口先だけになっていく」

常々、善一郎が孫の良宣に行っていることだった。

「ウン、分かったよ、爺ちゃん!」

「そうか!分かるか!分かるのか!分かってくれるのか!ウン、ウン・・さすがわワシの孫じゃ!ほか者たちとはやはり違う!ワシの天才性を受け継いでいるだけの事はある」

爺ちゃんはご満悦である。爺ちゃんの話すことに相槌を打てばもう嬉しくて仕方がないと言わんばかりの表情になる。

『フッ・・・ちょろいぜ!爺ちゃん』

「ウン?何か変なこと思ってないか?」

「いや、別に何もないけど・・・」

『ヤベ〜相変わらず鋭いな、注意、注意・・』

「武術の型を見せてやろう、いいか、パッと構えて、グッと力を込めて、ギュイーンと技を繰り出すんじゃ!」

『・・・意味わからんし・・・』

「アッ、爺ちゃん!婆ちゃんが来たよ」

良宣の祖母であり、善一郎の連れ合いである玖珂沙織が歩いて来た。

「婆さん聞いてくれ、良宣は天才だぞ、ワシの天才性を受けつでいるだけのことはあるぞ」

爺ちゃんの言葉を聞いたばあちゃんは、いきなり右ストレートを爺ちゃんの顔面に叩き込んだ。

爺ちゃんは地面で2回転した。

「正座!」

爺ちゃんは婆ちゃんの言葉に慌てて起き上がり、すぐさま背筋を伸ばして正座した。

「誰の天才性ですって?」

「そりゃ、ワシの・・・」

「ハァ〜?私の天才性の間違いでしょ。仕事をほっぽって孫と遊んでるあんたのポンコツぶりを受けつでないか心配だと言うのに・・・」

「それは、言い過ぎな・・・」

「昔、国会議事堂内での妖怪退治で国会議事堂内なのに大爆弾呪を使い国会議議事堂の1/3を崩壊させたのは誰かしら?」

「・・・ワシです・・・」

「昔、富士の樹海内に巣くった妖怪達を退治するのに森の中なのに大火炎呪を使い、樹海で大火災を引き起こし、近隣の市町村に避難警報を出すハメになったのは誰のせいかしら?」

「・・・・・ワシです・・・」

「発電所に現れた妖怪1匹を退治するのに、調子に乗って大雷撃呪を使い、発電機をショートさせ、近隣で数日間停電騒ぎを起こしたのは誰かしら?」

「・・・・・・・ワシです・・・」

「真夏の海岸に現れた妖怪を退治するのに、水着の女の子達にいいとこ見せようと大氷結呪を使い真夏の海を数日間凍結させて、真夏の海岸を氷で覆って全国的ニュースになったのは誰のせいかしら?」

「・・・・・・・・・ワシです・・・」

婆ちゃんはまだぐりぐりと爺ちゃんの若気の至りとも言う大失敗を攻めている。

気のせいか爺ちゃんがどんどん小さくなっている気がしてきた。心なしか存在自体が希薄になっている。

「あなた、隠業呪を使っているわね。存在を希薄にしてこの場から逃げようとしても無駄よ!隠業呪使っても私は効かないから無駄だと以前言ったはずよね!」

武芸の達人でさらに大爆弾呪、大火炎呪、大雷撃呪、大氷結呪だって!普通の陰陽師は使いこなすことが不可能だし、発動させることすらできんぞ!爺ちゃん何者?

さらに、その爺ちゃんを片手で吹き飛ばす婆ちゃんは何者?????

唖然として2人を見ている良宣。

婆ちゃんが急にこっちを向いた。

「良宣。いいこと、この人の言うことは話半分に聞いていなさい。玖珂家流陰陽術に大切なのは、霊力操作と式神操作よ!この二つが基本であり、ここから全ての応用が始まるのよ。霊力操作や式神操作はこの人は教えることはできないわ。この人の説明は、どうせグッこめ、パッと唱え、ギュイーンと発動させるとか言うに決まってます。私が良宣を一人前の陰陽師にしてあげます」

つい先ほど爺ちゃんは言ってな、よく爺ちゃんは、グッと、パッと、ギュイーンとか言ってるがホントわからんなと、さすが婆ちゃんよく知ってるわと良宣は感心していた。

婆ちゃんは爺ちゃんをほっぽってコチラに歩いてきて、ポケットから呪符を取り出した。

「婆ちゃん、それわ?」

「初心者が簡易的に式神を呼び出す呪符よ。これを手にしてゆっくりと霊力を込めてごらんなさい。小さな式神を一時的に呼び出せるわ」

渡された呪符には六芒星にいくつもの呪形文字が描かれている。

「これに霊力を込めるの?」

「そうよ、簡易的な小さな陣が書かれているから、小さな式神を一時的に呼び出したら暫くしたら消えてしまうわ。本格的な式神は、しっかりとした呪符や陣を自分で意味を理解して描けるようになってからね。今日はお試しみたいなものね。霊力の込め方は分かるかな」

「大丈夫だよ」

式神召喚は初めて挑戦するから良宣はワクワクしてきた。

「あの〜ワシの足が痺れてきたんじゃが!」

「正座継続です!」

「ハイ!」

爺ちゃんの威厳はどこに行った!それに、どことなく恍惚とした表情をし始めてる。

「さあ、やってごらん」

良宣は、手にした呪符にゆっくりと霊力を込め始めた。

『やっぱこの場合イメージが大切だよな。ゲームみたいに星座の精霊とか星の精霊がいたら面白いよな』

そんなことを考えながら呪符に霊力を込めていく、そして、無意識に霊仙三蔵法師として磨いた霊力をも込め始めていた。

小さな呪符が強烈な光を発し始めた。目を開けていることが出来ない程の眩しさの光。

「良宣!」

慌てた婆ちゃんの声に霊力を込めすぎたことに気がついた。

慌てて呪符を手離す。

呪符はドンという音をたてた。

光が収まってくるとそこに1人の人物が立っていた。

シルバーの髪をオールバックにして、黒の燕尾服を着こなした執事がいた。

「お初にお目にかかります。私はへびつかい座の精霊アクレピウスと申します。良宣様の素晴らしく強大な霊力に呼ばれ魂の契約を結び、良宣様を支えるべく参上いたしました」

へびつかい座の精霊アクレピウスは優雅に一礼をした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る