第4話 昔話

 500年程昔の話。この地の大名の領内は、度重なる戦と血で血を洗う凄惨な跡目争いのため疲弊していた。凄惨な跡目争いを勝ち抜いた大名家の当主は、戦と無計画な出費により破綻寸前の財政をなんとかしようと年貢を上げることにした。

各村の名主達が集められた。

「お館様からのご指示である」

頭を下げ平伏する名主達。

名主達を見渡す大名家の新しい若き当主。

「年貢はこの秋より、八公ニ民とする」

ざわめく名主達。名主達のまとめ役の者が声をあげた。

「お待ちくださいませ、それでは皆暮らしていけませぬ」

「なんだと、もう一度言ってみろ」

「それでは皆飢えてしまいます」

すると、いきなり刀で切りつけ、意見した名主は絶命した。

驚愕する家臣達と名主達。

血ぬれた刀を前に掲げ

「もう一度言う。年貢は、八公二民である。しかと申しつけたぞ。反対するものは切って捨てる」

そう言い残して大名家当主は出ていった。


あまりに高い年貢に領民が逃げ出し始めた。収穫物のほとんどを年貢として取られてしまい、領民達は生きて行くことができず、村を捨てる者達が出始めていた。刻が経つに従い多くの者が逃げ出すのは確実な状況であった。このままでは、他の大名家に飲み込まれてしまう。

先代の頃から仕えている年老いた家臣が見かねて進言をする。

「お館様、このままでは領内が保ちません」

「そんなことは分かっておる!」

神経質そうな目をして、親指の爪を噛みながら

「どうする・・・どうすればいいのだ・・・」

当主の後ろには、一流の刀匠が打った高価な太刀や大陸伝来の白磁の皿などがいくつも無造作に置かれている。

先代が亡くなった直後に、対立していた兄弟や親戚たちを騙し討ちにようにして排除して実権を握ったが、度重なる内輪揉めと戦さ、そして無秩序な浪費のため、財政は火の車でこのままでは立ち行かなくのは誰の目にも明らかだった。

「・・そうだ、森と山々があるではないか・・・」

焦った当主は、森と山々に目をつけた。広大な手付かずの豊かな森、金銀銅があるのではとないかという伝説の山々。

「お待ちください。あそこは歴代の御当主の誰もが神聖な場所として、どんなに困窮しても手を出さないようにして来た場所でございます。どうかご再考を・・・」

「うるさい!ワシに意見をすつもりか!」

激怒した当主は、立ち上がると意見をした家臣を蹴り飛ばした。

「お前達はワシの命令に従えばいいのだ」

そして、集められた家臣達を前にして眼光鋭く睨みつけるようにして家臣達に命じた。

「よいか!この地を豊に、そして力を蓄えるために、森を切り拓き新田の開発せよ。山々に金、銀、もしくは銅などないか調べよ」

「新田開発と言われますが、領民達が逃げ出し始めております。耕す領民が足りませぬが如何いたします」

年若い家臣が意見を上げる。

「戦で焼き出された流民を人買いから安く買い叩いて集めるか、他領から攫って来れば問題なかろう。さっさと行け」

主人たる大名は、短慮で気が短い。グズグズしているといつ切られるかしれたものではない。

つい先日も意見した家臣をいきなり斬りつけ手討ちにされたばかりだ。

命じられた家臣達は、急ぎ領民を集めて森を切り開く準備と山々に入り、鉱山となるものが出ないか調べるべく支度を始めた。


命じられた家臣達は、近隣の村々から男達を集め森にやって来た。

「まずは、木々を切り倒し山への道と新田となる場所を作るぞ、始めろ」

集められた男達が斧をふりかざし木を切り倒し森を切り倒そうとしたら、斧を持つ男達が次々に意識を失い倒れた。

「何が起きた・・・」

「わかりません。木々を切ろうとしたらいきなり倒れように見受けられます」

「倒れている者達を退かせ、さっさと切り倒せ!」

何度繰り返しても同じように意識を失い倒れてしまうため、人々は恐れ森に近寄ろうとしなくなった。

ひとりの年老いた領民が呟いた。

「森の主や山の主が怒っているんじゃ・・・」

老人の呟きは瞬く間に領民や大名家の家臣達に広がっていく。

「もっと恐ろしいことが・・・」

「私等は生きて帰れんかもしれん・・・」

「お怒りじゃ・・・お怒りを受けてしまったんじゃ・・」

「ここは人が手を出してはいかんところなのか・・・」

「返してくれ、村に女房子供がいるんだ。お願いだ・・・返してくれ!」

「祟りだ、祟りに違いない」

ざわめき動こうとしない領民や大名の家臣達。そこに、命じた当主がやって来た。

不機嫌そうに辺りを見渡し

「何をやっている。さっさとやらんか」

恐れ慄いている者達は誰ひとり動こうとしない。

「何が祟りだ!何がお怒りだ!怒っているのはワシじゃ。油を用意しろ。こんな森はワシが直々に焼き払ってやる。油を撒け。」

恐れ慄いている家臣や村々の男達は動こうとしない。

「油をまけと言っておるだろう、油を撒けといったら撒かんか」

業を煮やした大名は、油を用意させ自らの手で森を焼き払おうと用意をさせ、森に火を付けようとしたそのとき、森の上空に巨大な火の玉が現れた。

「火・・火の玉だ・・・」

恐れ慄き上空を見つめる者。

腰が抜けてへたり込む者。

両手を合わせお経を唱える者。

火の玉はどんどん巨大になり、火の玉の高熱が地上にいる者達にもはっきりとわかるほどになっていた。

火の玉はゆっくりと動き出した。火の玉は遠くに見える大名の城に向かって徐々に速度を上げ飛んでいき、程なく城に直撃した。

激しい爆発音が森にまで届き、城のあるところに巨大な火柱が見えた。

同時に森の中から一体の龍が現れた。10メートルほどの大きさで金色をしている。

「我は、この森と山々を守る理々姫の眷属なり、この森と山々に人の立ち入りは許さぬ。立ち入る者は、火の玉によって燃え盛る城と同じ運命を辿ると知れ」

龍の威圧に大名家当主や家臣、領民は腰を抜かし、立ち上がれずに這いずるようにし、一刻も早く立ち去ろうと必死に逃げ出した。

やがて、人々はこの森と山々を【はいらずの地】と呼び、森の入り口に神社を建て、神社の管理する神聖な場所として神職以外の立ち入りを禁じた。森と山々の主の名を口にすることすら恐れた人々は神社の名を【山森神社】と呼ぶことにした。

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