第3話 目覚めのとき

 気がつくと青空が見え周囲は深緑の木々が生い茂っていた。なぜ、、ここに寝ているのかしばらく考えていると、頭がズキズキし始めた。

そうだ、中学校からの帰りに、自宅近くの森の中でいつもの陰陽師の基礎訓練を始めたところで、急に頭に激痛がしだした。その後の記憶がないからそのままここで倒れていたようだ。

再び痛みが増してくると、自分の内側にある何かが外れて、強烈なエネルギーのようなものが沸きあがってくる。

「ウッ・・グ・ウウウ・・・」

頭を両手で押さえ、突っ伏すと全身から苦痛からくる冷や汗が全身から噴き出してきた。

5分なのか、10分なのか、それとも1時間なのか、時間が分からぬ程痛みに耐えていると、急に全ての痛みが引いて、全身の力が抜けた。

「・・・そうか・・・1200年もの刻が過ぎたのか」

男子中学生で陰陽師の玖珂良宣くがりょうせんの中に、もうひとつの自分の記憶が蘇ってきた。中学生で陰陽師である今世の自分。1200年前の霊仙三蔵法師と呼ばれていた前世の自分。どちらも同じ自分自身であり、いま二つの記憶は混じり合いひとになった。

「なぜ、こんなことに?普通は起こり得ないはず・・・」

地面に座り袖で顔の汗をぬぐう。

「中学3年なのに中身に68歳の記憶があるとは・・・」

樹々を抜けて吹いてくる微風に身を任せていると、目の前に小さな光の球が現れた。

光の球は、やがて身長が1mほどの大きさの女の子の姿になった。よく見ると羽もある。

「精霊?妖精・・・?」

「初めましてと言った方がいいのかな?僕は、この森や山々に住んでるこの地を守る精霊なんだ。いつも、修行の様子を見させてもらっていたよ」

この地を守る精霊と聞いて、良宣は驚きそして焦った。神や神の眷属、自然の気が長い時間をかけて凝結した精霊や妖精など、人前に出て来ることは滅多に無いし、自分の守る地やテリトリーに人が入り込んだり、荒されることを非常に嫌う。そのため場合によっては、大変な怒りを買い非常に危険なときもあるからだった。

特にここの森と山は【はいらずの地】と呼ばれていて神聖な地として扱われており、自分の実家でもある山森神社が管理している森でもあり、一般人の立ち入りを厳しく制限している。

自分の身内が管理しているからと安易になりすぎてしまった。

「申し訳ありませんでした。あなたの守る地に入り込んでしまい申し訳ありません。すぐに立ち去りますから!」

良宣は慌てて頭を下げた。

「君1人だけなら、別にこのまま使ってもらって構わないよ、君の発する霊気は気持ちいいからからね。他の人間の発する霊気や念は気持ち悪いから、君や一部の人以外はこの森や山には近寄れいないようにしている」

「近寄れないようにですか」

「そうだよ!最近の人間は、清涼なる霊地を見つけるとすぐにパワースポットとか言って、勝手にたくさんの人間が押し寄せてきて、勝手な願いを振り撒いて、気持ち悪い霊気をたくさん振り撒いて、清涼な地をぶち壊しにしてヘドロまみれのような土地にしてしまう。本当に頭にくるよね」

「すいません」

「良宣、君が悪い訳じゃ無いから気にしなくていい。ここで修行していることを吹聴したりしなければこのまま使ってくれ、君にも秘密の修行場所が必要だろう。玖珂良宣君こと霊仙三蔵法師殿!」

「・・・・・」

「フフフフ・・目覚めたばかりの力はゆっくりと慣らしていく必要があるからここを使えばいい。そうだ、僕のことは『シルフ』とでも呼んでくれ、その方が現代らしいだろ。まあ、いろいろ聞きたいことがあると思うがそれはまたの機会にしようか、そろそろ日が暮れるよ」

そう言われ空を見上げると空が茜色に染まり始めていた。

「ありがとうございます」

良宣は頭を下げ、急いで帰ろうとした。

「あ、そうだ。良宣!霊気はしっかり抑えるようにね。今のまま街中に出ると騒ぎになる。霊仙三蔵法師なら簡単だろう!それから、僕に出会ったことは秘密にしておくこと。よろしくね!」

言われて初めて尋常ではない量の霊気が溢れていることに気がついた。

良宣は、目を閉じて丹田に意識を置き、独特のリズムで呼吸を始めると、溢れ出ている霊気はみるみる収まっていった。

良宣が目を開けると既にシルフは姿を消していた。

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