第2話 割れた封印石

 西日本の山奥にしめ縄が巻き付けられた巨石がある。1200年ほど前に現れた魔物を空海が封印したものと伝承が残っている巨石だ。高さ約5m。横幅は10mにもなる。

よく見ると細かな傷がかなりあるがいずれも表面的な小さな傷だ。

深夜その巨石に近づく人影がある。月の光に照らされた姿は、この山奥には不釣り合いな真っ赤なドレス姿をした若い女性。髪はブロンドで腰まで伸びていた。

「フフフフ・・・・・自力で封印を破る力は無いようね」

女は、巨石をしっかり観察しながらゆっくりと巨石の周りを一周した。

「封印を破るために力を貸してあげてもいいわよ。この封印は、閉じ込めた魔物の力を吸い出して、その力を封印の強化に使うようになっているわ。内側からは決して破れないようになっているし、このままだと、あと1年もしないうちに残っている力を全て吸い取られて、あなたは消えてしまうわよ。どうする?」

巨石から微かに声がしてきた。

「・・・・・タ・ス・ケ・・・テ・ク・・レ・・・・」

「いいわよ!その代わり力を貸してもらうわよ!」

「・・・ワ・・カ・ッ・・タ・・・」

女は巨石から少し距離を取ると、雲ひとつない星空に向かい右手を上げた。その瞬間、強烈な稲妻が巨石へと落ち、爆発音と共に巨石が砕け散った。

砕け散った巨石から長さ30センチほどの黒い蛇のようなものが出てきた。

「1200年ぶりに出られた。酷い目にあった」

「おやおや、巨大暗黒竜アスラが随分と小さく可愛くなったものね」

「フン、仕方なかろう大陸で霊仙とか言う化け物のような霊力を持った坊主に危うく滅せられそうになり、力の9割以上を使い義体を作り、義体を囮にしてここに逃げてきたら、今度は、空海とか言う坊主に弱っているところを狙われて封印されてしまった。くそ、忌々しい」

「そんな可愛い姿になった理由はどうでもいいけど、約束は守ってもらうわよ」

「何を企んでいる。元々人にも魔物にも妖怪にも関わりを持とうとしていなかった魔女ガレル」

「久しぶりにその名を聞いたわ、よく私のことを知っていたわね」

「大陸の魔物や妖怪で古の魔女を知らぬものはいない。何を企む」

「女には秘密が多いのよ、詮索は、キ・ン・シ!」

「フン・・・」

「付いて来なさい」

女は暗黒竜アスラに背を向けると歩き出した。その瞬間、暗黒竜アスラは口を大きく開けて女に襲い掛かろうとした。しかし、直前で体が空中で止まってしまった。

「クッ・・・動けん・・・」

女は振り返ると笑いだした。

「フフフフ・・・・・自分の体をよく観てみたら!」

暗黒竜の体に黒い髪の毛のようなものが無数に巻きつき空中で動きを封じていた。

必死にのがようと体をくねらせるがますます強く締め上げられていく。

「暗黒竜と言っても所詮は魔物。しっかりと調教が必要ね」

「貴様、何だと・・・」

黒い髪の毛のようなものは暗黒竜の口を縛り始めた。

「うるさいから静かにしてもらうわよ。フフフフ・・・いい素材が手に入ったわ」

女は満面に笑みを浮かべ縛り上げた暗黒竜アスラを見ていた。

「しかし、凶悪無双とも言える暗黒竜アスラを打ちのめして封印にまで追い込むなんて、もしそんな奴がいたら私でも遠慮したいわね、最も1200年も生きる人間なんていないから心配するだけ無駄かしら。さて、夜が明ける前に帰りますか」

女は、森の闇に消えていった。

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