灼熱地獄に咲く獅子
暗転から1拍後、灼熱が俺を出迎えた。
「開幕テレポートとか聞いてないんだけどおおおぉぉぉ……!!」
絶叫しつつも瞬時に思考を切り替える。俺は今どこにいる、プレイヤーの数は、落下の衝撃を流すルートは。
このゲームは経験則によるところも大きい。突拍子もない変化についてこれず、妙な着地を決めてしまってダメージを負っている人が割と出ていた。
しかし! 舐めるなよ、ゲーム販売日にハードとソフトを揃えた
メニュー画面から〔地形把握〕を展開しつつ、高めに設定した探索力で着地点に使える足場を発見する。
一方で敵の位置を認識して驚いた。
「多いな……っ!?」
人1人乗るのがやっとの狭い岩場に足を着けながら呟いた。
俺の周辺の時点で200人を下らない。プレイヤー総数的には大した割合でなくとも、密集率が大変なことになっている。見渡してみたら既に戦闘が始まっている箇所もあった。
俺が最初に憂いたパターン、乱戦。しかもここはシステム的に分かりにくいけれど。
『火山エリア』
持続ダメージが無条件で与えられるエリアだ。暑いと認識できないからこそ、初心者はこの状況の悪さが理解できない。
早く脱出しないと。そう考えて岩石から一気に飛び下りた。僕だったら骨折レベルだけど、俺ならノーダメージ。
でも、やはりというべきか。いつの間にか脱出口へと並走するプレイヤーが散見できるようになってきた。
初心者が既に戦っているなら、脱出を目論むのは〔
このルールでゲーム慣れしている連中が始めることなんて、1つしか――!
ヒュンッと何かが右耳を掠めようとする音が後ろから聞こえた。反射神経をフルに活かして左へ跳躍する。
一瞬だけ視認できたそれは、恐らく鞭状の武器。アイテムを拾っている奴もいたのか。
武器の取得手段は、今回の場合だと2つ。
今の俺が選べる手段は後者のみ。
火山というだけあって、マグマが流れていたり荒々しい削りの岩肌が見受けられたりする。
丁度良い部分を見つけて、そこに回し蹴りをぶち当てた。攻撃力は低くしてあるけど熱で風化しているはずの岩は呆気なく壊せる。
岩石の破損によって発生した石ころを拾った。内1つは左手で初期装備のポケットに捩じ込みながら、振り返らずに右手で後方へ向けて投擲する。
「うっあ、何だおまっ……!!」
けれど。次に聞こえたそれは、明らかに俺の投げた石が運良く当たったとかじゃない。
後ろにいるプレイヤーで俺の間近にいるのは……5人。いや、4人……ん、3?
そこで気づいた。誰かが何かしている。
ゲーマーの本能的に危険を感じ取って後ろに視界を向けた。
そこにはとんでもない光景が広がっていて。
大柄な外見の男と華奢な少女。
パワー系にしたのであろう男の素早い殴打を、少女は平然と回避している。
踊るように。左に右に、男をかごめかごめで閉じ込めるように。
そうすること幾ばくか。彼女は速度で彼を上回った。完全に背後を取った瞬間、可憐な姿から獰猛な獅子を連想させるに至る。
少女は跳ねた。並々ならぬ高さから、男に踵落としをお見舞いする。
そしてその時、俺は見た。
シャットダウンの象徴を。
――パンッ。
風船を割るような音。敗北者の先端から中央を、バグの画像が覆う。やがて――。
大柄な体躯は消えていた。キャラクターという役者は、舞台から降ろされた。
勝者は薄い桃色の髪をかきあげる。緩やかな雰囲気の外見からは想像もつかないほどに眼光は鋭かった。
獲物と認識されるより先に影を発見して逃げ込む。あちらが認識能力のスキルだったら意味のない行動だけど、多分それはない。
彼女は低姿勢になった。まるで草食動物に目をつけた肉食動物のように。
直後。バンッ、とトラックが人を轢いたかの如き音が聞こえる。慌てて地面を見てみると、足場となったそこが可哀想なほど抉れていた。
それとなく熱砂を回収させてもらいつつ観察は続ける。もはやそこは単なる蹂躙の場と変貌を遂げていた。
薄桃が舞う度、風船が割れていく。異常性に気づいた者には既に暗闇しか待っていない。
その牙は中堅達を喰らい尽くした後、狩猟の素人へも向かっていった。
早く離れないと。ダメージが蓄積していく、それでもなぜか目を囚われたまま動けない。
多分、それは。
少女が途方もなく美しかったから。
ネット上でしかないのだと理解していても、それでも彼女の絵画的な美貌に見惚れていた。
戦姫。形容するならば、きっとそれが正解に近い。けれど強さと美しさを表しきれない。
何とかしないと。逃亡は可能だっただろうけど、俺にはもはやそれしか考えられなかった。ならいっそのことそれに集中することにする。
……俺が外に出ながらも、彼女を引きずり出す算段。考えろ、考えろ考えろ考えろ。
そして。ようやっと、見つけたかもしれなかった。獅子のお手軽な捕まえ方を。
震える体で強者に挑む。
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