わがはいは猫

翔羅

第1話

 わがはいは猫である。名前は『ハチワレ』である。わがはいの名前は、人間が勝手につけたのだ。わがはいの毛の模様から考えたそうだ。

 フッ…人間は愚かだ。われわれ猫の世間では、すでにその名は知れ渡っている。なぜなら……ニャン十年、ニャン百年、ニャン千年と前からすでに!われわれ猫の頂点であられる『猫神様』がお決めになったこと……だからである!!

 会ったことないけど。



「ハチワレ、今日も目を閉じてキリッとしてるな~。何考えてんだろう?」


 いつもテラスの方を向いてるハチワレ。太陽の光が気持ちいいのかなぁ。頭と背中の黒い毛が、太陽の光でキラキラしてる。

昔飼ってた黒猫もそうだったけど、綺麗な真っ黒かと思えば、ああやって太陽の光が当たると黒一色じゃないんだよなぁ。犬もあんな感じなのかな?

 でも犬は怖いんだよなぁ。



 フン!人間……お前はわがはいの心など分からないだろう。いや、分かられてたまるか!なんせ今日は…!


「せんぱ~い、またテレなんとかでだだ漏れっすよ~。」


 ニャンとっっ!?わ、わがはい、まだ力の制御が……って!テレなんとかじゃなくて、テレパシーニャのだ!


「うぃ~っす。」


まったく、あの茶トラめ…。

 おい、人間!この扉を開けろ!



「…お?ハチワレがこっち見てる。どした~?」


 ハチワレは鳴かないから、視線で要求してくる。

ハチワレを飼い始めて1年だけど、まだ一度も声を聞いたことがない。元々野良だからかな。まあ、鳴かなくても可愛いことに変わりないけどね!


「お外か。あ、いつもの茶トラだ。行っていいよ~。あんまり遠くに行くなよ~。」



 よくできましたなのだ!人間!後で『あの記念』を兼ねて、褒美を持ってこよう。

 あの人間の一軒家の庭にある人間2人分ほどのウッドデッキに、毎日ふらっと現れる茶トラ猫。わがはいがここに連れてこられる前から、いつの間にかふらっと現れてくつろいでいたと、あの人間が言っていた。だが、わがはいがこの家に住むようになってから、時間は決まっていないが毎日来るようになったとも…。

 物好きな茶トラだ。

 待たせたな茶トラよ。して、今日は何用なのだ?


「おわ~……ハチワレって、やっぱり他の猫の前でもキリッとしてるんだな~。」


 何を当たり前のことを…。相手がどんな存在であれ、礼儀というのはしっかりせねばならぬだろう?


「せんぱ~い、まだそんな変なこと考えてるんですか~?」


へっ!?変なことだとっ?!礼儀が変だというのか!!

 …こいつの住処でもないのに、なぜこんなにもゴロゴロできるのだ……この茶トラは……。


「だってぇ~、俺ら猫にレイギってやつ?いるんすか~?」


当たり前だ。礼儀によって、縄張りが維持されるからな。


「縄張りって……そもそもイエネコである俺らに縄張りなんてないでしょ。」


ぐっ…!それもそうだが……。だ、だが!礼儀によって人間になめられないだろう!


「なめられるというか~、可愛がられてるというか~。」


うぐっ…!


「というか~、せんぱいまだあの人間に鳴いたことないんすか~?」


………そうだ。私は鳴かなくても生きていけるからな。


「ふ~ん、そのテレパシーで~?でも人間には聞こえないって、言ってなかったですか~?」


…あの人間には鳴かなくていいのだ。本来の私をみてくれるからな。


「…先輩、今まで黙ってましたけど、損してますよ。」


…え?


「犬と違う猫の声での特権。まだつかんでいないんでしょ。」


え?


「俺ら猫の声は……人間を魅了するんすよ…!」


み、魅了?


「ちゅ~るですよ、先輩。じゃ、俺、腹減ったんで帰りま~す。」


あ!おい!コラッ!どういうことだっ!!……いなくなるのは速いんだよな。

 ふむ……ちゅ~るか。猫によっては、マタタビより良いものだと噂されるアレか…。ふんっ!わがはいはそんなものいらないのだ!茶トラのように余分な肉はいらないのだ!

 おっと!褒美を忘れるところだった!



 なんだろう……視線を感じる気がする。

 なんとなくハチワレが出て行った扉の方へ顔を向けた。するとこちらをガン見している黄色の瞳と目が合った。


「お、帰ってきた。おかえりハチワレ。なんか……いつもより胸張ってる?カッコイイね。」



 フッ…今日もわがはいに気付き、扉を開けたな……褒めてつかわす!

 このまま自然な流れで『あの記念』を兼ねた褒美を渡す!完璧っ!!



 ん…?ハチワレ、何か銜えてる?なんか餅みたいなのだな。


「ふにゃ~~~お!(喜べ人間!)」

「ねっ!?……あ、ありがとうハチワレ。ねずみ獲ってきてくれたんだね~。」


 餅かと思ったらねずみだった。ま、まあそうだよな!逆に猫が餅を銜えてた方がびっくりするよな!!

 猫がネズミとかの獲物を渡してくるのって……単純にプレゼントの場合もあれば、人間は狩りができないと思ってごはんとして持ってきたり、狩りの練習用に獲ってきてくれたり……だったかな?

 うーん、ハチワレはどれなんだろう…。

 …あれ?そういや、今……。



 フフンッ!!この日の為にわざわざ獲ってきたのだ!感謝せよ!!


「ハチワレ……今鳴いたよねっ!?わ~~~♪♪今日は記念日だー!!」


 そうだぞ!今日はお前がわがはいを……死が近付いている野良であった私を……救ってくれて1年なのだ!!


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わがはいは猫 翔羅 @kuroneko_no_satO8

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