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「晴香?」
「その……お腹、を、ですね……撫でるのは……」
「気にするほど肉付いてねえだろ?」
「寝起きだからって許されない発言はありますからねえええええ」
晴香はシーツに顔を埋めたまま叫ぶ。いっそこのままこれを理由にできるのではなかろうかと、そんな考えが一瞬過る。が、葛城の掌はいまだ下腹部に触れたままで、あげく確かめるように軽くぐ、ぐ、と押しながら撫でるものだから晴香は反射的にその手を掴んでしまった。
「なんだよ? もしかして痛むのか?」
「……そうじゃなくて」
「ん?」
葛城が気遣わしげにしているのを気配で察し、晴香はボソボソと真相を打ち明ける。
「お腹……お、押されると……きもちよくなっちゃうので……あまり、さわらないでください……」
ビシリ、と葛城が固まった気配もこれまた察し、晴香はさらにシーツに顔を埋める、というかもう穴を掘る勢いで額をグリグリと押し付ける。
逃げたい。恥ずかしすぎる。なんだこれ、といっそ泣きたいくらいだ。
ただ後ろから抱き締められているだけならきっとこんなことにはならなかった。それが、いつも以上に身動きがとれないのと、偶然とはいえ首筋に触れた唇や下腹部に触れた掌が、そういった行為を晴香に思い出させたのだ。
こんな所が触れられただけで感じるだなんて、昔の晴香は知らなかった。せいぜい擽ったいと思う程度でしかない。なのに、こんなにも――
そう、先輩が全部悪いんだから! となった所でふと気付く。そういえば葛城が固まった気配までは察したが、それから先が分からない。やたらと続いている、ような気がする沈黙も恐ろしく、晴香はゆっくりと顔をシーツから上げて後ろの様子を伺う。
真顔でこちらを凝視したままの葛城とバッチリ視線がぶつかった。見るんじゃなかった、と後悔してももう遅い。葛城はまさに心の底から、といった態でポツリと呟いた。
「……エッロいな……お前」
「せ……先輩のせいでしょおおおおおお!!」
首筋は大抵の人間が触れられれば擽ったく感じるだろうし、そこで感じる様にもなるだろう。だが、下腹部を上から押されて感じる様に――それどころか、こんな事になろうとは。丸っと全部葛城が原因だ。身体を作り替えられたといっても過言ではない。
「先輩が、あんな……!」
行為の最中に葛城は晴香の下腹部を押す事があった。不思議な事をしているなと気付いた時点で止めておけばよかったのに、その意図が分からない晴香はされるがままで。その結果、見事開発されてしまったのだから笑うしかない。
「いや笑えないんですけどね!」
「そうかそうか、開発したかいがあったなー」
「他人事ぉッ!」
「他人事なもんかよ。俺が手塩にかけて育てた身体なんだ、大事に決まってんだろ」
「言い方が不遜すぎるしそしてわたしにとっては不安すぎるんですけど!」
葛城が半身を起こせば、晴香はその隙にと身体を捻って逃げようとする。当然それは阻止されて、晴香は仰向けに転がされた。見上げる先にいるのは、最高に楽しそうな顔をして笑う葛城だ。ああなんて見知った光景かと、これから先の自分の未来を察して晴香は泣くしかない。
「そういやお前首筋もすげえ弱かったもんな」
微かに触れる呼気と唇の熱。じわじわと宿った快楽の火種が、晴香の意識を呼び起こした一番の原因だった。
「中途半端はつらいだろ? 今からちゃんともっとしっかり気持ちよくしてやるから」
「お気遣いは結構です」
両手を胸の前に置き、ノー! と晴香は力強く言葉と態度で示す。
「先輩寝ましょう今すぐ寝ましょう即座に寝ま……ちょ、なっ、手ぇっ!!」
示した所で相手にされるわけもなく、葛城の手は迷いなく晴香の服を脱がせていく。
「遠慮するなよ、俺とお前の仲だろ?」
「遠慮じゃなくてー!」
「じゃあこうしよう」
「どうですか!」
「俺を気持ち良くしてくれ、晴香」
仕留める気満々の葛城の色気が真っ正面から飛んでくる。こうなるともう晴香に太刀打ちできる術などあるわけもなく、後はもう大人しく我が身を差し出すしかなかった。
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