かいはつ・1
どうして目覚めてしまったのだろうと悔いた所でどうなるものでもない。とにかく現状がマズすぎて、晴香はどうにかそこから抜け出そうと試みるがあえなく失敗。
ベッドの上で、背後から葛城に抱き込まれるようにして寝ているこの状況。完全なる抱き枕扱いだ。不服がある、という程ではない。むしろ普段は晴香が葛城を抱き枕扱いにしているし、さらに「いまひとつ柔らかさが足りないんですよね」などと文句を口にしては頭を掴まれている。それに対し、葛城からは今のところ不満の声は上がっていないので、抱き枕としての晴香は合格ラインなのだろう。
いやそうじゃなくて、と晴香はそれた思考を引き戻す。
背後からしっかりと抱き込まれ、葛城の長い脚で晴香の脚も絡め取られている。身体の上から覆い被さるように回された腕は晴香の腰に、肩にはちょうど葛城の顎が乗せられている。おかげで身動きが取れない。軽く喉の渇きを覚えたのもあるが、この身じろぎ一つ取れない状態のせいで目が覚めてしまった。
そして起きてしまったからこそ、急速に自覚したものがより一層眠気を遠ざけている。
肩の上に葛城の顔があるために、どうしたって呼気が晴香の首筋を擽ってしまう。それにゾワゾワとしたものを感じてしまうのはまあ当然の反応だ。さらに追い打ちをかけるように、葛城がモゾリと動けば髪の毛の一本一本が余計な刺激を与えてくる。
擽ったいし笑ってしまいそうになる。今は、まだ。
これがこのまま続けば大変よろしくない事になるのが目に見えており、だからこそ晴香はなんとかそれを阻止するしかない。だって、このままだと確実に自分は――
「……っ、ん……!」
少しばかりできた身体の隙間、に葛城が無意識ながらに腕に力を込めて抱き寄せた。その拍子に葛城の唇が晴香の首の横に振れる。その瞬間、思わず晴香の口から微かながらに、それでも甘さを含んだ声が漏れた。
ああああああ、と晴香は内心狼狽える。こうなると思ったからこそ、どうにか逃げ出したかったのに間に合わなかった。
きつく抱き締められた身体。後ろから触れてくる唇。そこからもたらされるものが自分の身体にどういった影響を与えるか。身を以て教え込まれたのだから堪ったものではない。
これ以上は本当にマズイ、と晴香は葛城の腕を持ち上げた。起こしてしまうかもしれないがそれはそれ、これはこれ、だ。グイ、と動かせば流石に葛城も目覚めたのか、小さく唸る様な声を漏らした。
そしてさらに強まる腕の力。
「う、わっ!? ちょ、先輩」
「んー……」
「あの、先輩、少し離して」
「……いいから大人しく寝てろ」
身体が空いた分だけ抱き寄せられる。いつの間にか下になった方の手で晴香の両手は一つに握られているし、上から回った方の腕は晴香の腰をしっかりと抑え込み、掌でポンポンとあやす様に下腹部を叩いてくる。
半分以上寝ているのだろう、葛城は「大丈夫大丈夫」となにが大丈夫なのか分からない返事をするだけだ。きっと晴香が怖い夢でも見て起きた、とでも思っているのだろう。掌の動きと共に、晴香のこめかみ付近や耳元に軽く口付けてくる。寝かしつけの行為であって、それ以上の意図はないのは明白だ。けれど、これもまたそれはそれ、でしかない。
「……せ、……先輩!」
ビクン、と大きく肩が震え、ついに晴香は白旗を揚げた。もうこれ以上は無理だ。羞恥の極みでしかないが、正直に訴えるしか他にない。
「どうした……?」
これには流石に葛城も目が覚めたのか、晴香を抱き締めたまま軽く肩を浮かせ、後ろから覗き込む。うう、と晴香は逆に顔を見せまいとシーツにうつ伏せになって逃げた。
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