探し物

自分だらけの写真というトラウマものの一品に遭遇したことを除けば、パソコンで大した収穫は得られなかった。


ただメンタルに傷がついただけなのでもはや収穫とも言い難いが仕方ない。


スマートフォンはどうなのだろうか。

キラキラバージョンの「だれか」は、ただでスマホを手放すようには見えない。偏見だが。


私が成り代わっているのだから持ち出したというのも考えにくいはずなのに全く見つからない。


探すのが下手なのもあるんだろうな。

幼少期から私は何かを探すことが苦手だった。

大好きなお菓子やお気に入りのおもちゃが見つからず泣いてしまう私を母はいつもなだめていた。

小学校に入ると失くし物の数は格段に増え、「眼鏡を頭に乗せたまま探す」なんて定番だってクリアした。

純粋な子供達から紹介やらをされる時には「いつも何か探してる子」という文が定型化した。


中学生になって、いつも何か探してる私の生活に少しだけ変化があった。

共に探してくれる子ができたのだ。

公立の中学校では浮いてしまうような眩さをもつ子だった。

失くし物が多すぎて周りから呆れられることが当たり前になっていた私に対してその子は探し物を聞くと何やら妙なことを囁き、そして「三分だけ待ってね」と言った。


三分の間にその子、Aは親の気紛れで中学からこの地域に引っ越してきたことや探し物が得意であることなどを話し、私は反対にずっとこの地に住んでいる事や探し物がとびきり下手であることを話した。


私とは真逆の子だった。


話している間に私の探し物はどこから出てきたのか、机の上に置いてあった。

絶対探したし探さなくたって確実に目につくところだったのにさも「ずっとここにありましたよ」とでも言いそうな具合で鎮座していたのだ。


不思議だった。不思議で仕方ない子、それが私からみるAの印象だった。


Aは友達が沢山できた。

誰とでも仲良くなれたのだ。

反抗期全開で趣深いリーゼント頭の男の子とだって、中二病を拗らせた右腕包帯の女の子とだって馴染めた。


凄い子だ、と思った。

私はそんなに器用ではなかったから。


Aのおかげで平和で楽しい中学校生活を送れたといえる。間違いなく、楽しい思い出だった。


何故今の今まで忘れていたのか、不思議なくらい。


あの時Aが囁いていた言葉を思い出せばもしかしたら、なんて考えてみる。


「私」はAではないけれど、私でもないから見つかるかもしれない。

探し物が下手な私ではないと、そう思うのだ。


「探偵さん探偵さん、スマートフォンを知りませんか。お知りなら、私にお渡しくださいな。探偵さん探偵さん、スマートフォンを知りませんか。お知りなら、三分待つにくださいな。」


こんなことを言っていた。

改めて考えると少し、いや大分恥ずかしい。

誰だ探偵さんって。おかしいや。

しかし普通の状態ではないのだ、このくらい許されるだろう。

第一、私以外いない世界で私が許して誰が許さないというのだ。


恥ずかしさから自問自答を繰り広げているといつの間にやら三分経っていて、そして何処かから声がした。


「はいはいこちらにありますよ、お探しのものがありますよ。不思議な世界のお嬢さん、お探しのものをやりましょう。」


間違いなく、探偵さんとやらの声だろう。

久々にきいた自分以外の声が、なんだか分からないナニカの声ってなんだよ。

スマホはパソコンの横に置かれていた。


「感謝いたします探偵さん、優しい優しい探偵さん。どうかまたお助けを、お待ちしてます探偵さん。」


さっきまで忘れていたはずなのに、Aの言葉が当たり前のように口から流れ出た。


「ご利用どうもお嬢さん、見つかってよかった探し物。大丈夫だよお嬢さん、きっとあの子は見つかるさ」


あの子って、誰のことだ

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