最速からの

驚いた。

瞬きの間に私は五度目の「だれか」になっていた。


単純な話、玄関を開けてすぐに殺されたのだ。

「私」と同じ顔した、けれども私が着ないようなふわふわな白い服をした女に。


「許さない」とか「私のものにならないのが悪いのよ」とか「すぐいくからね」とか、ヤンデレゲームのバッドエンドしか聞かない台詞を吐きながら滅多刺しだ。


ふわふわの白い服を返り血で真っ赤に染めながら、どこか苦しそうでいて、そして少し悦んでいるような顔で胴体に穴を開けられた。


ふざけてるとしか言いようがない。

私の顔でそんな気色悪い表情を晒してくれるな。


大体あの男は何をしたら玄関を開けた途端滅多刺しなんてルートに辿り着くんだよ馬鹿じゃねえの。


やはり痛みは無かったが、四度目の死だけあって不吉でやっぱりクソだった。


そうして四度目の生は潰え、五度目の「私」を迎えた。


今回は女の部屋だった。

二度目で目覚めた私の部屋ではない、いわゆる「キラキラ女子」の部屋だ。


桁違いのキラキラだ。

断じて私がキラキラしていないわけではない。


あまり減っていない香水瓶の並び、そんなに唇ないだろとしか言いようがない多量の口紅。天蓋付きのベッドに白とピンクで統一された家具達。


本来の私とは絶対に相容れない女だろうと思う。


やたらお洒落な姿見の前に出るとやはり私だった。前回私を殺した「私」とは違う系統のふわふわした服を着た私だ。


顔は私のはずなのに、妙に着慣れた心地がする。

違和感が少ないのだ。服に着られている感じとか、そんなのが。

まるで幾度も着てきたような感覚だ。


そんなことないに決まっているのに。


さて、四度目の死で外に出ても良いことなんてないという思考に陥っていた私は家の中でどうにか試行錯誤することにした。


まずはこの女を知ってみよう。


しょうもない偏見だが、こういう部屋の女は絶対リンゴの名を冠する会社が出したパソコンを持っているはずだ。


それを見つけて開ければ、何かは分かるだろう。

案の定やかましいくらいにキラキラした机の上にそれはあった。


不覚、開ける訳がないじゃないか。

だってこれは私ではない「だれか」のもので、そしてこういうものにはパスワードがついてるのが当たり前なのである。


「この女がクソ間抜けで机のどっかにパス書いてたら助かるんだがな。」


とりあえず開いてみると、スリープ状態だったようでボタンを押すことなく起動できた。


パスを書くほど間抜けじゃなかったので困るはずだったが、身体が覚えていたのか私の手はパスワードを打って開いていた。


私の身体なのに私が知らないことを覚えているのは少し不思議で、結構不快だ。


名前や顔がわかる写真でもあれば万々歳。

写真フォルダを漁ってみる。


私は写真フォルダを開いたことを後悔した。

開けばこの女の顔がわかるはずだったのに、顔が写っている写真に出てくるのは一枚も余すことなく「私」だった。


気持ち悪い。

私の容姿をした「だれか」が、いっぱいいる。

二度目で見たあの光景を撮ったような、色んな格好した私だらけの写真。

吐き気がしてきた。


一体なんなんだよ。

一体、どういうことだというのだ。




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