一体私が何をした
腹立たしいことに私の選択は正解だった。
死ぬことで移動ができたのだ。
白い部屋から次は、どこだここ。
ユニットバスのワンルーム。
バンドのポスターにエレキギター、ダンベル、バスケットボール。ほとんど空の冷蔵庫にビールが数本。
一人暮らしの、男の部屋だろうか。
男の部屋だな、洗濯物が干しっぱなしだ。
知りもしない男の部屋に移動させられたのか私は。
本当に意味が分からない。
もしかしたら知り合いの部屋かもしれないと、失礼を承知で探索するも手がかりになりそうなものはなかった。
外に出るべきかとも思ったが、とにかく現状を把握したかった私は自身の格好を見て疑心を抱いた。
メンズだ。
今着ている柄シャツはメンズのものだった。
いつだったかメンズとウィメンズの違いを調べたことがある。ボタンが左だとか右だとかそんな話だ。
タバコ吸って黒スキニーに革靴履いたバンドマンが着ていそうな柄シャツのボタンは右側についていた。
嫌な想像をしてしまう。
といっても死ななきゃ移動できないこの夢の中じゃ大して酷いものでもないが。
この部屋の持ち主になっている、なんて想像だ。
一度そんな考えが浮かぶと、それはもう払拭できなかった。
話の筋は通るのだ。
一度目、気がつくと私は知らない場所を歩いていて、そして死んだ。
その知らない場所も、私が誰かに成っていたと考えればなんてことはない。知るはずもないのだ、他人に成っているのだから。
納得いくかと聞かれたらこれっぽっちも頷けやしないが、少し現状が把握できた。
一体全体どうしてか、私は自分の容姿のまま知らない誰かに成り代わり、そして死ぬことでまた誰かに移っているようだった。
妙に手が込んでいて酷く難しい、心を病んだ学生が見るような悪夢を私はただ体験しているのだ。
見慣れない鏡には見慣れない格好をした見慣れた顔が写っていた。
クソだ。
どうするべきなのか全くもってわかりやしない。
だって移動するだけなのだ。
私の顔をした知らない誰かのまま死んで、また知らない誰かになって死ぬのだ。
解決法なんて浮かばない。
現代風に言うならば私は今「詰んでいる」。
それはこの状況という意味でも、そして私の精神衛生的な意味でも。
だって三回死んだのだ。
ゲーム世界ならいくらでも生き返られるし実際私は生きているが、ゲーム内で死ぬのと実際死ぬのとじゃ訳が違う。
どういった造りなのか三度の死は痛みを伴っていなかった。そのことが私にここは現実世界ではないと認めさせた。
だが、だからといってダメージがないわけではない。刃物を向けられるのも自分で首を吊るのも、どう考えたって精神衛生的に言えば最悪なのだ。
三度の死で私はメンタルを追い込まれていた。
残機不明のリセマラゲームに強制参加させられている現状を嘆き、そして感情をぶつける先を私は探していた。
ない頭で考えに考え抜いた結果、とりあえず外に出てみることにした。
本当は着替えたかったが、私には「私」に見えていても傍目から見れば「本来の彼」に見えているかもしれないのでそれはやめておいた。私は優しいのだ。
今回はどうやって死ぬのだろうか。
なんて惨い事を考えながらワンルームの玄関を開けた。
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