明晰夢であれ

目を覚ました。

悪夢の中で歩いていたところでもなく見慣れた私の部屋でもない、知らない場所で。


病院のものと思わしきベッドしかない、白い部屋だった。

私は部屋と同様に白い服を着てベッドで横になっていた。


「んだよ、まだ夢みてんのか」


醒めない夢に悪態をついて部屋を見渡した。

見慣れてはいないが見覚えはあった。


海外ドラマで見た精神疾患の人を閉じ込める部屋。

白く柔らかい壁は、ドアの境目を隠していた。


ふざけるな。

ふざけるなふざけるなふざけるな!


例え夢でも、来たいはずもない場所だ。

ベルトで縛り付けられていないだけマシかとも思ったが、それでもこんなところに来るような謂れはない。


悪夢はまだ続くようだ。



なんとかドアを見つけて叩いてみても、なんの反応もなかった。

人が来るどころか、そもそも外に誰かいる気配すらないのだ。


自分だらけの世界で殺されて、今度は誰もいない密室に閉じ込められている。

そんな夢。


そして、また寝てみることにした。

そもそも私は寝ようとした時に殺されたから、ちゃんと寝れちゃいないのだ。

だから夢が終わらない。それが私の導き出した結論だった。


真っ白な部屋に耐えきれなくなったとも言えるが。


自身のものより固いベッドに入り、今度こそ寝ようと目を瞑った。


寝れば終わる、そう考えながら私は意識を落としていった。


クソ。

クソだ。やっぱり。そうだと思った。どうせそんなことだろうと思っちゃいたのだ。

寝ても夢は醒めなかった。

夢の中で寝ただけだ。

意味が分からない。


目を覚ましても景色は変わりやしなかった。

真っ白な部屋にベッド、白い服。

おかしい、おかしすぎる。

なぜだ。


おかしいことはまだあった。

尿意が来ないのだ。食欲も。喉だって渇かない。

私は先程眠りにつき、そして起きてきた。

なのに、本来生きるのに必要とされる様々なことが、作用しない。

この部屋に時計はないが感覚的には数時間経っているはずだというのに。


こわい。

そんな感想しか出なかった。

恐怖のままドアを叩いても誰も来ない。

私の身体はおかしいままで、身体はおかしいのに怯えているあたり心は元のまま。


一体、何が起きたというのだ。

少なくとも夢で二度死んだ。そして目が覚めて、寝たのに夢からは醒めない。


夢の中で死んで起きたら移動していた。


まさか、死ななきゃいけないというのか。

馬鹿な考えだが、それしか浮かばなかった。


夢だ、夢なんだ。死んだからって、どうってことはない。だってもう二度死んでるんだ。


一度目は車に轢かれて二度目は自分の顔をした誰かに刺されて。


やっぱりクソだ。


二度とも誰かによってもたらされた死だった。


しかし、ここには私しかいない。


なんてこと。


つまりは、自分で死ぬ必要があった。


待っていたかのように音がして目を向けると、ベッドからそう遠くない位置の天井から縄が吊り下がっていた。


ふざけ散らかしてやがる。


「次があるなら自分で死なせるのは勘弁してくれ」


そう言って私はベッドを蹴った。





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