第133話 三つの城(1)佐和山城

 城の歴史はそのまま、武将達の歴史でもあり、

城を舞台に戦った武士もののふ達の生と死を見詰めていた。

 

 大湖おおうみ河畔には丹羽長秀の佐和山、

羽柴秀吉の長浜、

明智光秀の坂本という三つの重要な地があった。


 四年前の佐和山は、

下克上で伸長した浅井長政の本拠、

小谷おだに城の支城としての役目を帯びて、

浅井家の支配下にあった。

 

 二年前、元亀二年、

佐和山城を任されていた浅井家重臣、

磯野員昌かずまさが激しい戦闘の末、

信長に降伏すると、

信長は勇猛果敢を称賛し、

義弟 長政へのこれ見よがしであるかの如く、

敗北の将 員昌に近江高島を与え、

信長の甥 津田信澄を員昌の養子として入れた。

 

 敵であったに関わらず領地を授かり、

織田家一門に連なった員昌だったが、

一見、破格の高待遇に見え、

実は単に高島を得たのではなく、

そこに信澄が付いているのであるから、

実際、員昌にとっては、

もろ手を挙げて喜ぶ話ではないであろうが、

一族郎党、首を刎ねられ、

断絶の憂き目に遭っても致し方ないところ、

名目上とはいえ、

一国の主としての地位に座って、

信長の縁者となったことに違いはないのであるから、

浅井家を離れた以上、

昨日の敵を今日の主として忠節を果たすしか、

生き残りの道はないことだった。


 地理的にみて、岐阜と京の中継地、

佐和山の城主に長秀を据えたのは、

第二の岐阜城的扱いで佐和山に武器、兵糧を蓄え、

同時、旅の軍勢の休息所、

信長の座所として用いる意味があった。

 天下の中心、畿内に於いて長秀は、

信長の家臣として初の一国一城の主となった。

 これは、長秀の積年にわたる忠義に信長が応え、

褒め授けたもので、

家中の誰もが得心せざるを得ない功賞だった。


 


 



 

 

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