23. 冷める前に食べよっか

僕はそう発した瞬間にサァーっと血の気が引くのが自分でもはっきりと感じられた。


「収録……?何の?ウミのお兄さんって芸能人?」


ああ、まずい。僕は取り返しのつかない失態を犯してしまったのだと理解する。実の話、僕の兄貴はゲーム実況や歌ってみたで活動し、収益をあげている。世間ではそこそこ名が知れていて、中、高校生を中心にファンも多い。


それでも顔バレ、身バレには気を使い、ずっと正体を隠してやってきたっていうのに……


そう考えたら涙が出てきた。僕は意外と泣き虫なのかもな、なんて。ふと、そんな事を思った。


「芸能人?」


兄貴の声が部屋に響く。


「な訳あるかよー。俺、委員会。」


鼻で笑って兄貴は続ける。僕は顔をあげた。


えっ……。


「ほら、もうすぐ秋だろ?卒業式の準備があって。写真のサツエー。」


兄貴がそう言って大きくため息をつく。


「何もこんな時に撮らなくても良いのに……。」

「わかる……。」


意外にも同意したのは希だった。


「僕の方の委員会もビデオの撮影場所とか、花を渡すとか、決めるのにあんなに時間取らないで欲しいよ……。」


その時。


ぐううううううううう


大きな音が僕の隣から聞こえて耳を疑う。


「ごめん。俺……。」


麗野が顔を両手で覆う。


「プッ……アハハハハッ!」


夢望さんが噴き出す。


「冷める前に食べよっか。」


僕が微笑んでそう告げた。


「もう。リオが話題振ったんじゃない。」


そう言った夢望さんがなんだか不思議そうな顔をしていた事に僕は気が付かなかった。

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