22. ほんの好奇心

「調子はどうだ?」

「調子はどうなの?」


私と空の声が重なった。


「「あ」」


私は頬が熱くなるのを感じて顔を背ける。空がそれを見てにやりと笑った。


「お前ほんっと口下手だな。」

「同じこと言った空にだけは言われたくないんですけどー!?」


私は先程手渡された眼鏡をかけると睨みながら言った。


「ひぃー怖い怖い。」

「はぁ……まぁいいや。入って。」


玄関を開けると、皆で作った料理の良い香りが漂ってきた。


「いや、あの……なんかさっきは悪かったよ。」

「え?どれの事?」


ポカンと口を開ける私にしどろもどろになる空。


「どれって……その、抱きし……何でもない。」

「あー、あれ?あれは滑った私が悪かったよ。」


逆に嬉しかったんだけどね、と小さく呟いた私の声は空には届かず、秋の香りが仄かにする風に溶けていった。


––––––––〜☆〜––––––––


海said


「姉さん遅くね?」


僕が思っていた事をそっくりそのまま麗野が口に出した。


「そういえばそうだね……。」


心配そうな顔をして希がそっと口に出す。


「様子見てみようか。」

「そうするか。」


僕と麗野が盛り付けた肉のお皿をテーブルに置きながら会話する。麗野がそう言ってリビングのドアを開こうとした瞬間。


「あっ、麗野!?」

「ムギョッ!」


外側からドアがこちら側に勢いよく開き、よそ見をしていた麗野は僕の忠告も届かず、悲惨な声をあげてドアに端麗な顔面を直撃させた。


「あ!ごめん!!」

「いだぃ……。」


顔の前で両手を合わせて片目を瞑る夢望さんに鼻を押さえる麗野。しかし、僕の目は夢望さんの後ろの人物に向けられていた。


「兄貴……!なんでここに……?」


皆の視線がスッとドアの向こうに立つ男性に向けられる。彼は笑って言った。


「あ、どうもー。海の兄の空でーす。なんでって、お前を迎えにきたんだよ。」

「僕ここで夕飯食べて行くけど。」


そう言った瞬間兄貴の目がバッと見開かれた。


「まじ…!?じゃあ俺今からコンビニ行って来るわ。」

「皆が良いならおかわり分あるけど……。」


僕は皆の顔を順に眺める。


「僕は大丈夫だよ!お兄さんに僕らの料理食べて貰いたいし!」


私も、俺も、と希に二人の声が続く。


「じゃあ兄さんの分つけてくるね。」


僕はそのまま台所に行けば良かったんだ。僕が変な質問をしなければ。その時の僕は平和ボケしていて。先のことなんて何一つ考えてなんかいなかったんだ。


僕は言った。

ほんの好奇心で。


「そういや。」


「兄貴。収録終わったの?」

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