20. 急な来客なんて聞いてない!!

油分が入った卵を味噌汁に入れたら味噌汁に油が浮いてしまう。自分の家なら全く問題がないが、相手は大富豪麗野家だ。麗野の失敗ならまだしも、ここまで頑張っていた二人の頑張りを無駄にするような事をしてしまったことが悔しいし、情けない。


「おうおう!上手に出来てんじゃーん。」


そこへ自分の部屋へ行っていた夢望さんがやってきて、僕らの目の前の油の浮いたとき卵をひょいっと取り上げた。


「「え。」」


僕らの声が重なる中、夢望さんはスタスタと火の止まった鍋にとき卵を流し込む。


「味噌汁に入れるんでしょ?やってあげるよ。」

「あ、あぁぁ。」


僕の口から阿呆な声がこぼれ落ちる。


「え?何?間違えた?さっきそう言ってなかった?」

「いや、それは……。」


僕はモゴモゴと口ごもる。いや、野菜を切って肉のフライパンで卵と野菜の炒め物に修正する事も出来たのに……


「姉さん、解ってやれよ。ウミがその卵、入れたかったんだよ。」

「いや、違うけど。」


えー?違うのか?顔だけを前に出すような形で麗野が驚いたように告げる。


その時……


ピーンポーン


「はーい。……誰か来たよー!」


四人分のグラスに麦茶を注ぐ希がインターホンに出て、こちらに声を張り上げた。


「十中八九、宅配便だと思うな。」


夢望さんが顎に親指と人差し指をあて、名探偵のようにニヤリと微笑んだ。


「あー、そうかも。俺行ってくるよ。」


そう言って動き出した麗野の腕を引っ張る。


「待ちたまえ。」

「え?どうした?」


僕が嗜めるようにゆっくりと口を開く。


「味噌汁をつけ分ける仕事がまだ残ってる。」

「いや、それはウミがやっ……。」

「悪いが、僕には肉があるんだ。」


食いぎみにそう答え、僕は肉の火を止め、まな板に載せる。


「僕はこれからこれを切らなくちゃならない。君が必要なんだよ。」


いつに無く真剣な表情で僕は告げた。


「じゃあ私が行ってくるよ。」


うなだれている麗野を見て笑いながら夢望さんが言った。


タッタッタ


夢望さんが廊下を駆けていく音がした。玄関に辿り着き、あとはドアを開けるだけだった。何もかも順調だった……はずなのに。


「えっ……!?」

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