09. 昔話に花を咲かせて

––––––––〜☆〜––––––––


言ってもいいか解らないんだけど……。


突如、昔の彼女の声が脳裏で反芻される。彼女は「言ってはいけない」と言われなかった物以外はそう言って誰にもオープンに情報を提示する。その為、僕はずっと彼女の事を口が軽いのだとばかり思っていた。言ってもいいか解らない、その言葉を聞く度に僕は彼女に何かを教える事を躊躇った。僕が発した秘密がそういう風に世界に流れていくという事実を考えるだけで震えが止まらなくなってはまた戸惑った。


でも。


「絶対、誰にも言わないでよね!?」


ツインテールの少女の声が放課後の教室に響く。忘れ物を取りに帰ってきていた僕は開こうとドアにかけた指を離し、その手を固く握った。


「何を?」

「さっき話した事全て。」

「あー、麗野が好きだって事?」


その場の空気でツインテールの少女が眉を寄せた事が解った。そんな風に口に出すような彼女が果たして約束を守ってくれるだろうか、そう思ったのがこちらまでひしひしと伝わってきた。


てか、まじかー。やっぱりモテてるなぁ、麗野。昨日俺の部屋でガチャ爆死して叫んでたとは思えないもんなぁ。


その瞬間、僕の携帯のバイブレーションが鳴り響く。


やべっ!?


慌てて廊下の向こう側まで走り、そのまま携帯を開く。


「おい、今日ウミの好きな実況者さんの生配信日だろ?もう次の電車に乗らないと間に合わないぞ!!」


届いたのは麗野からのメッセージだった。『チッ、何だよモテ男が。タイミング悪すぎだろ。』そう打ちそうになって慌てて携帯を閉じる。


そんな事打ちそうになるなんて口が軽いのは僕じゃあないか。と、いうかヤバいヤバい。このままじゃ本当に生放送に間に合わない。この頃やっと売れてきた2人の久しぶりの生放送だ。初期の頃からのファンとして投げ銭はともかく、コメントはしたい!


僕は走って学級扉にタックルするようにクラスの中に駆け込んだ。


ガラガラガラ


「あっ。」

「う、ウミ。」


忘れてた。生放送の事ばかり考えていたが、この中では『ドキドキ☆彼女の恋と口軽論争!?』が行われてる真っ最中なんだった。


ツインテールの女子が気まずそうにトレードマークのツインテを指でくるくると回す。


「あれ〜、2人とも教室で何やってんのー?いや、僕は忘れ物なんだけどさー?」


おっと!?何聞いてるんだ僕ぁ!!そのまま忘れ物の問題集だけロッカーから取って帰れば良かったじゃないか!


しかし、冷や汗をダラダラ流していたのは僕だけではなかった。ツインテールの少女は目を泳がし、制服のスカートの裾をギュッと握りしめている。そして、耐えきれなくなったように口を開いた。


「あのさ、ウミ。どこまで聞」

「私達も今帰る所だよ?昔話に花が咲いちゃってね。あー、もうこんな時間か!」


彼女が遮るようにそう僕に話しかけ、ツインテールの少女が目を見開く。小さく「響…。」と彼女の名前をこぼすのが僕の耳にまで届いた。それほど彼女の言い方は普通すぎて、違和感なんて微塵も無かった。そのまま時計を見た彼女の目線を僕も追う。


「あーーー!?ヤバい!!!」


僕は叫んでクラスを飛び出す。麗野が警告してくれていた電車の時間が今にも過ぎようとしていた。


「じゃあなー!」


走りながら振り返ると、彼女が満面の笑みで大きく手を振っていた。


––––––––〜☆〜––––––––


ハッとして僕は薄暗くなった携帯を人差し指でタップした。彼女の一言がそこにはあった。それを見て僕はまたもや息を呑む。

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