08. 漏れ出す感情

先程までも眩しかったライトが余計に光って視界が滲む。僕は目元を拭って走り出した。息も絶え絶えになりながら駅へ飛び込む。改札をスピード落とさず通り抜け、駅員の忠告も聞かずに電車に身を捻じ込んだ。


「駆け込み乗車はァおやめくださァいー。」


妙なアクセント付きのアナウンスに自分の事を言われているのにも関わらず、吹き出す。自分のしている事が急におかしく思えてくるのと同時に馬鹿らしく思えて、僕は恥ずかしさと可笑しさでゆっくりと下を向いた。


「クッ。フフフッ……。」


引き続き空いている電車の中、笑いながら鼻を啜る僕の姿はおそらくとても奇妙に見えただろう。おそらく昨日と違い、乗客は僕の事を見ているんだろうなぁ、なんて事を考えてまた笑う。その時だった。スマホが僕の気持ちを代弁するかのように震え出した。通知は……クラスのトークルーム。個人チャットではなく肩を落としたのも束の間、表示されたメッセージは彼女の物。


––––––––〜☆〜––––––––


『今日何かした?明日って特別な持ち物ある?』


今日したことを頭の中で回想して画面から目を離し、戻す間にトークルームには既にいくつかの返信がついていた。クラスのトークルームは都会の雑踏のように進みが早い。


『要らないよー。でもこの前配った数学のプリントが明日提出だから終わらせて持ってきてね〜』


と、真面目に質問への答えを打つ人も居れば、


『日野ちゃんが休みで寂しかった〜(泣く顔文字)』


などと個人的な感想を打ち込む者まで様々だ。自由なトークルームでは僕の聞きたかった質問が溢れるように飛び出してくる。学級の話し合いでもこのぐらい早ければいいのになぁ、なんて僕がニヒルな笑いを浮かべた、その間にも話は着々と進んでいく。


『何で休んだんだっけ?病院?』

『いや、先生は忌引きって言ってた希ガス』

『忌引き?法事ってこと?』

『それは知らんけど……』


返信の真面目さは時として仇になる。


『詳細は本人しか解らないでしょ。』


ほら来た。言わすことを目的としたその言葉。皆の好奇心は答えを知るまでとどまる事を知らない。


『えっと……』


彼女は口籠もるようにそう打った。僕はその文字を見て、怒りと同時に自分自身も真相が知りたいのだと悟る。


『色々あったんだけど、うん。』

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