第6話 使者
何時間ほど泣いたのだろうか?
あるいは数分かもしれない。
とにかく死体に寄り添いながら泣きじゃくった俺は突然落ち着きを取り戻したように顔を上げると3人の埋葬を始めた。
「ごめんな………俺が…近くにいれば………」
農業用のスコップを使って穴掘りを始める。
冷たい地面に冷たい死体を埋めていく。
なんだか自分も冷たくなったように感じ、吐き出しそうな言葉を抑えながら黙黙と埋め続けた。
全て埋まった後、遺品として何か持っていこうと考えて自分の部屋に戻った。
机の上に置かれていたバースデーカードが気になり手に取って読み始める。
ソラへ
まずは誕生日おめでとう。
マヒロばかりを気にかけてしまって悪かったな。父さんと母さんもマヒロが聖女になれた事が嬉しくてマヒロの事ばかりになってしまった。
そのせいでお前の誕生日パーティーが遅れた事を謝らせてくれ。
それと、一つ気になっていたのだが、ソラの職業は剣士じゃないと思う。
本当は別の職業だったけど剣士と言ったんじゃないのか?
ただの勘だし、何故そんなことを思ったのか分からないが、そうだったとしても父さんはお前がやりたい事を応援するよ。
だから安心して前を向いて生きていってくれ。
死ぬまで父さんはお前の味方だ。
父より
読み終わった紙に大粒の涙をこぼしながら俺はその紙をポケットに入れた。
今ので滲んでしまったかもしれない。
雑にポケットに入れたからくしゃくしゃになったかもしれない。
でも大切にしよう。
死ぬまで俺はこの手紙を大切にするんだ。
涙を拭うと、俺はギルド支部へと走り出した。
………………………………
………………
……
「だから!本当に家に帰ったら家族が死んでたんですよ」
ギルドに着いた俺は必死に家の状態を説明したが、残念ながら信じてもらえない。
というよりかは、犯人の方が信じられないと言う様子だった、
「……で、その犯人が魔王軍だと?冗談言わないで下さい。魔王軍がこんな辺鄙な街の小さな家をピンポイントで狙うわけないでしょう」
「ですから!家には聖女がいて……」
「はいはい、それでは次の方が待ってらっしゃるのでお引き取り下さい」
そう言うと俺は強制退場させられた。
なんで信じてくれないんだよ!
なんとか職員に信じさせる方法は……
そう考えていたら、町の門の方が騒がしくなってきた。
よく見ると豪華絢爛な馬車が門の前に停まっている。
「なんだ?なにかお祭りか?」
俺も気になったが、今はそれどころではない……と思っていた。
しかし、中から出てきた人の声によってその考えは払拭された。
「私は王城からの使者である!聖女様はまだ居られぬのか!」
ああ、そうか!
今日がマヒロの迎えが来る日だったんだ。
なら使者に今の状況を伝えれば信じてもらえるだろう。
幸い、マヒロの容姿の確認の為かこの間の役人さんも横にいる。
今なら話を聞いてもらえるはずだ。
「すみません!ちょっと通して………あの、使者様!」
「む、何だ貴様は。私は聖女様を連れ帰る為に来たのだ。関係ないものは去れ」
「私は聖女マヒロの兄です。少しお話があります」
「なに?」
聖女様の名前がマヒロだと知っている者は少ない。
とりあえず、この間来た役人、それと使者、あとは王都の偉い人が数人と、そして他にいるとすれば聖女の家族だけである。
口止めはされていたのでそうそう広まる心配は無かったのだ。
となると、この少年が聖女様の兄だと言うのは本当かもしれない……
現に、この間聖女様と対面した役人は少年に見覚えがあるようだ。
そう考えた使者はソラの話を聞く価値があると思い一瞬目を細めたが話を聞くことにした。
「ふむ……よかろう。君の話を聞こうじゃないか」
「それでは着いてきてください」
ソラはそう言うと使者達を惨状があった我が家に案内した。
「む、これは……」
血だらけの家を見て何があったのか察した様子の使者……
「私が家に帰ると既にこのような状況でした。
聖女様と家族を守れず不甲斐ありません……」
使者はソラをじっと見つめると何か考えたような顔をして……
「分かった。今日はもう下がれ。今夜は現場の確認をする。明日君に話がいくと思うからこちらが手配する宿でゆっくり休むが良い」
「分かりました」
こうして、ようやく息をつけるとソラは思う。
しかし、これからだったのだ。地獄の始まりは……
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