第5話聖女
「あら、お帰りなさいソラさん。冒険はどうでしたか?」
「スライムを倒して来ましたよ。買取お願いします」
あの後、スライムを数匹倒してギルドに戻った俺はスライムの核をギルドにて買い取ってもらう事にした。
幾許かの報酬を得た後、俺は家路に着いた。
「さてと、俺も働けるようになったんだし、明日からもっともっと働いて家庭を楽にしてあげなくちゃな」
マヒロの正装と俺の装備品を買った為、家にはお金がない。だからその分ちゃんと働かないとね。
先程貰った銅貨を握りしめて走り出す。
家が見えて来た。
ドアを開けて勢いよく中に入る。
早く家族に今日の成果を教えてあげなくては……
「父さん、母さん、マヒロ、ただいま!」
「おお、おかえり。じゃあ死ね」
そう言うと、俺の家に何食わぬ顔で居座っていた化け物が笑いながら俺の胸を刺してきた。
「は?……へ?」
胸を剣で貫かれた俺はその場で倒れ込み苦しさのあまり泣きそうになる。
「なん……で、お、まえ……」
よく見ると、化け物は既に血まみれだった。
それも返り血で……
苦しそうにする俺を見ると化け物はニタニタ笑いながら話しかけてくる。
「いやぁ、悪いな。別にお前まで殺すつもりはなかったんだが、お前が悪いんだぜ?予定より早く帰ってきちまったんだからよ」
「おまえ……は、誰だ」
「ああ?まぁ良いか、冥土の土産に教えてやるよ。俺様は魔王軍所属のガーゴイル様さ。ここまで来るのは大変だったぜ?魔王軍の中で唯一変化の術を使えるのは俺様だけだからな」
「魔王軍が……な、んで」
「そりゃ厄介だからさ、聖女なんて職業」
「は?」
「どんな傷でも治せてしまう『パーフェクトヒール』、味方全員にとんでもない倍率の強化魔法を複数かける『範囲複合強化』、あらゆる魔法を無条件で威力を半減にする結界『エクストラフィールド』、どれを見てもとんでもない効果だ。ある意味勇者より厄介だよ」
ガーゴイルは俺の頭を踏んづけながら話を進める。
そろそろ意識が保てなくなってきた。限界かもしれない。
「そこで、頭のいい魔王様は聖女と賢者は勇者パーティーに加入する前に殺してしまおうとしたわけだ。勇者と聖騎士の方は成長前でもかなり強いから俺じゃあ倒せねえが……非戦闘職の聖女と魔法を使えるようになるのに時間がかかる賢者じゃそうはいかねえ。簡単に殺せたぜ?賢者も聖女も」
「聖女を…ころ……す?お前マヒロを殺したのか?」
「ん?ああそんな名前だったけか?3人殺したからよく覚えてねえけどそうじゃねえの?あっ!お前も含めて4人だったな!アヒャヒャ」
「おい……ふざけるなよ」
「死にかけのくせに威勢がいいじゃねえか!良いぜいいぜ殺ってみろよ!無理だけどなぁ!」
「『浄化結果』!」
「な、何だ……体が急に……」
浄化結界を施した事によってガーゴイルは動けなくなっている。
浄化結果内では低級の魔物は動きが鈍るのだ。
「『ハイヒール』」
そして、自分の傷を癒す。
「なっ!……て、テメェの方か!?聖女だったのは!」
ガーゴイルは何とか立ち上がるとソラに襲い掛かる。しかし……
「『『物理強化』、『魔法強化』、『魔法威力上昇』、『加速』、『思考加速』」
今使える支援魔法の大半を自分にかける。
更に……
「『鈍化』、『脱力』、『エナジードレインフィールド』、『痛覚強化』」
ガーゴイルにデバフを掛けた。
こうなっては立っている事すらやっとだ。
「て、テメェふざけやがって!殺す!絶対殺してやる!」
「ふざけてる?ふざけてるのはどっちだ。何の罪もないマヒロと父さんと母さんを……殺しやがって!」
「あぁん?テメェら人間は殺してねえとでも言うのかよ。俺たち魔物をよ」
「知るかよそんなの。たしかに俺はスライムを殺した。けどな……少なくともマヒロは何も殺していなかった……ただ多くの人を救いたかっただけのアイツがどうしてこんな目に……」
ソラはガーゴイルに歩み寄ると、動けないガーゴイルの首を絞めて持ち上げた。
「く、くるひぃ…ひぬ!たふけて!わるかったから!もうひないから!」
「駄目だ。お前は俺の家族を殺した。殺す理由には充分すぎる……せめて苦しみながら逝け」
そう言うとソラはガーゴイルの首を更に強く握り、そのまま息が止まるのを待ち、やがて動かなくなったガーゴイルをそこに置き去った。
これからどうしようか……
せめてマヒロ達の埋葬を……
妙に冷静な自分に少しばかり恐怖を感じながら、死体を探し始めた。
しかし、見つからない。
一体何処にあるんだ?あと探してないのは俺の部屋だけだが……
いそうもないが、一応見ておこう。
そのつもりで開けた俺の部屋には3つの死体が並んでいた。パーティーの飾り付けと共に。
テーブルの上には誕生日ケーキが置かれていて、壁にはハッピーバースデーソラの文字……
ようやく感情を取り戻した俺はその場に崩れ落ち絶叫した。
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