サイドストーリー2話“父とゆき”
店にある男が入ってくる。ゆきはその男の顔を忘れたことはない、その男は多額の借金を残して姿をくらませた紛れもない自分の父親だった。
「ゆき……」
ゆきはSNS等でこのカフェのことを宣伝していたため、いつかは見つかるかもと覚悟はしていたが、まさかこんなに早く見つかるとは、
「ゆき、話したいことがあるんだ……」
もはや肉親とも呼べないような人の話を聞くか聞かざるべきか心の中の天使と悪魔がささやく。しかし、
「わかりました。聞きましょう」
そう言ってカフェの表扉を閉め、クローズにする。カウンター越しに向かい合って二人は対峙した。
「単刀直入に言う。あの時はすまなかった!」
机にぶつけるくらいの勢いで頭を下げる父、いまさら何を言うのか、てっきり金が無くなったとでも言うかと、いや、そういわれた方がどれほどよかったか、謝られると母の亡くなった時にも顔を出さなかった"こいつ"に今更何を謝ることができるのか。
「これ、少ないかもだが……」
そう言って厚みのある封筒をカバンから取り出し、カウンターの上に置く。中には大量のお札が入っていた。
「おれは合わせる顔がないと思ってずっと会いに来ることができなかった。花実の葬式にも、墓参りにも、今も墓参りできるほどの合わせられる顔がない……その金はまじめに働いた金だ。銀行に聞いたら返済は終わってるって聞いた…………その額の半分しかないが、今後また返しに来るから、だから」
気づけば父も自分も泣いていた。父は後悔とその他もろもろで泣いているのだろう。しかし、自分の泣いている理由がわからなかった、猫達は雰囲気を察して2階に退避していたので二人だけの空間が出来上がる。
数分間の沈黙のうち、ゆきはやっと口を開いた。
「一つ約束して」
父はゆっくりと顔を上げ、真っすぐ彼女を見つめる。昔のようなおちゃらけた格好でもなければ嘘をつくような顔でもない。今なら彼女の言葉も真っすぐ届くだろう。ゆきはメモ帳から一枚紙を破り、さらさらと住所を書き連ね、父に手渡す。
「お母さんの墓の住所」
それと3分の2の金額が入ったままの封筒を父に返していった。
「それはお母さんの分、会いに行って」
それを聞いた父は再び泣き出し、
「わかった…わかった……必ず行く」
彼はゆきからコーヒーを淹れてもらい、落ち着いて息も整え、店を後にした。後日、ゆきが母の墓を訪れると墓石が新しいものに代わっている。約束を果たしてくれたようだ。さらに後日、店の休憩時間に父が来て、残りの返金と、お店用の新しいコーヒーカップをくれた。
「こんなんで過去が変わるなんて思えないだろうし、過去は変わらない。で未来は変えれる。父としてできなかったことをやらせてほしい」
彼は自分の住所の書置きをして店を後にした。ゆきも、完全に許したわけではないが、今度会いに行ってもいいかなと思える程度の好感が持てる男に彼は更生していたのだった。
カフェ kitten(リクエスト作品) 小雨(こあめ、小飴) @coame_syousetu
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