サイドストーリー1話“ゆきの過去”

 部屋の中は何もない。差し押さえの札が張られた家具と病気で風前の灯火の命にある母親、父親は多額の借金を残しどこかへ消え去っていった。母はその借金の返済のために働き、とうとう無理をしていた体が壊れ重い病にかかった。診察のために家に訪れた医者は、

「もう半年も持たないでしょう」

 と、幼いゆきに過酷な現実を突きつけた。彼女は母親が医者にお願いして連絡をしてもらった親戚の家に引き取られた。その数日後に母親の死が警察からの電話で伝えられた。

「ゆきちゃん、お母さんと同じようにとはいかないけど、本当の家族だと思ってもらえるように叔母さんたち頑張るからね」

 そう言われ今ゆきが定住している北海道に来た。彼女は高校には行かず、働く方法を考え、弁護士事務所や経営をしている人へ話を聞きに行ったりして今のカフェ“kitten”を開店させた。彼女なりの努力をしたが人件費を稼ぐほどの自信がなく、クラウドファンディングを行った際に、同時に働いてくれる猫を募集した。まさに猫の手も借りたいの言葉通りだったが、何より一人で営業できる自信がなかったからだ。結果的にその方法に興味を持ってくれた人が、

「うちの猫でよければ」

 と言った感じで少しづつ従業員が増えていった。猫達の日給は飼い主との話し合いでそれぞれ価格が違う、指示が聞けるか、理解できるかなども給料にかかわってくる。それでもいいという有志の飼い主と、猫達のおかげで店の経営は成り立っていた。数年で叔母の家から独り立ちできるほどの利益を出せるまでに至った。

 彼女は過去を絶対に忘れない、しかし怨嗟としてではなく、思い出として記憶に残している。


「いらっしゃいま…………」

 ある日、店に一人の男が現れる。その男は…………

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