はまつきさんとちゃちゃブレンド
お昼前の11時、カフェには2、3人の客が入っており、注文が複数入る。店員はその注文を一人で捌いて猫達が品を出す間もてなすといういつもの光景、そこに今日は一人の女性が入ってくる。
「こんにちは~連絡したはまつきです~」
店内の猫達と店員が一斉にそちらを見る。
「あら、短期バイトの方ですね~2階に上がってくださーい」
はまつきは言われるがまま2階に上がった。1匹の茶色い猫がトテトテと階段を上がり、ついてくる。店員さんの声が1階から響いて聞こえてきた。
「ちゃちゃが乗った棚に制服があるのでそれをきてくださーい」
ちゃちゃとは恐らくこのついてきた猫だろう。茶トラ柄でいかにも”ちゃちゃ”という名前が似合う子だ。『猫がいる職場であなたもコーヒーを』という紹介文に魅かれ来てみたはいいものの、想像の数倍猫がいて一瞬たじろいでしまった。ちゃちゃが緑色の木製タンスに飛び乗り、
「なーん」
と鳴く。『ここだよ!』というかのようだ。タンスの扉を開けると各サイズの制服が入っている。sからLまでのサイズの和服基礎の制服を手に取り、袖を通す。着心地のいい制服に何やらいい香りもする。ちゃちゃは立っている足にスリスリと顔をこすりつけてきている。一通り着終え、ちゃちゃと一緒に1階へ降りていく。
「お待たせしました!」
丁度お客さんがいなくなって店がひと段落ついていた。
「はまつきさんでしたね、今日は来てくれてありがとうございます。お店のシステムについて説明しますね」
少女はそう言って接客の仕方、コーヒーの淹れ方、コーヒーブレンドの説明を受けた。今日のブレンドはさっきついてきた看板猫のちゃちゃが選んだちゃちゃブレンド。酸味が柔らかく苦みの緩いブレンド、実際に1杯淹れてもらって飲んだ。
「1回飲んだ方が説明しやすいですよ~」
と、言われるまま飲んだのでしっかりと味わった。ちゃちゃはそれを真剣に見ていて私が横目で見ると伸びをして気にしてないふりをされた。人間っぽいなと思い思わず笑みがこぼれる。
勤務自体は数人のお客様が来ただけであっという間に時間が過ぎてしまった。
「お疲れ様でした~。今日のお給料とこれは私の奢りです~」
といわれ、ちゃちゃブレンドと、ココアクッキーが出てきた。従食とかはないのでほんとに奢りなんだろう。茶封筒に金額の書かれたものとコーヒー、クッキーが目の前に差し出される。ココアクッキーはほろ苦い中にもしっかりとした甘みのあるしっとりとしたクッキーだった。ちゃちゃは膝の上で丸まってふぅといった感じですやすや寝息を立てていた。サクサク食べる中も店員のゆきちゃんは片づけをしている。まったり食べていたらいつの間にか8時を回っていた、紹介文で来てしまったので自宅との距離を考えていなかった。北海道は乗り継ぎで終電関係がややこしい。
「あ!そろそろ帰らなきゃ! すいません、着替えてきます!」
足早に2階に上がって着替えを済ませる。ちゃちゃは相変わらずついてきてずっと足元にいた。
「今日はありがとうございました! またよろしくお願いします!」
深々とお礼をするとゆきちゃんはちゃちゃを腕に抱えてなでながら、
「はい、またよろしくお願いします。今日はお疲れ様でした~」
あいさつを終えて従業員用の裏口から出る。すっかり空は暗くなっていた。カフェの雰囲気に後ろ髪をひかれながら帰路につくのだった。
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