亜希ちゃんとミルクカフェオレ
軽音部の練習の帰り、夕方4時過ぎ、
「今日も失敗したなぁ」
と、独り言をつぶやく。今度の大会で使う曲のソロパートがどうしても成功しない。数回合わせ練習や自宅で練習しているのだがどうしてもうまくいかない。コードがまるまる一段とぶので、指の反応が追い付かなかったのだ。ため息をついて顔を上げると、視界の端に真っ白な塊が目に入る。びっくりして反射的にそちらを見ると、真っ白な猫がいた。鼻の周りだけが黒く、毛並みがさらさらとしている。目が合った、そう思った時、
「にゃん」
こっちを見て鳴くと真横の扉に入っていく。表札には”カフェ kitten”と書いてありどうやらカフェのようだ。気分の沈みが激しく家に帰りたくなかったのでちょうどいいと思い、白猫についていくことにした。
店内に入ると背の低い一見少女に見える店員がこちらを見ている。
「いらっしゃいませ~奥のカウンターへどうぞ~」
言われるがままに歩みを進める。よく見ると店内に様々な種類の猫がいる。自分も猫を飼っているので品種はよくわかる。ペルシャに三毛、ベンガルやマンチカンもいる。
「いろんな種類の猫がいるんですね」
店員に言うとメニューをこちらに差し出しながら笑顔で言った。
「はい、全員店員なんですよ。今日の看板猫ちゃんにつられてきましたね?」
図星で思わず微笑する。店員さんに、
「あの、本日のコーヒーをカフェオレで、あとスコーンをください」
先ほどまで店内のあちこちにいた猫達が集まってきている。その猫達を構っている間に頼んだ品が運ばれてくる。
「スコーンと……ミルクカフェオレです」
ミルクカフェオレ……? 言い方を不思議に思って訪ねようとしたところ店員さんから説明が入る。
「お客様は初めてですので当店のシステムをご説明いたしますね。 当店は看板猫の選択した3つのコーヒー豆をブレンドしてコーヒーをお出ししています、今日はその白いカオマニーのミルクちゃんのブレンドなのでミルクちゃんブレンドのカフェオレなので、ミルクカフェオレなんです」
面白いシステムだなと思いながらカフェオレに手を付ける。白猫は興味津々といった感じでその様子を観察しており、横目で見ながら口に含む。甘い中にもキッとした苦みが決まっていてメリハリがついている。そのとき何かが私の中を走る。
「店員さん! ちょっとだけ楽器ひいていいですか⁉」
店員さんはあっけにとられていたがすぐに笑顔で、
「はい、いいですよ」
そういわれて横に置いていたベースをギターケースから取り出して自分のソロのところを弾く。メリハリをつける、緩急を作る。そうすることで一段飛びがうまくいった。弾き切ると店員さんから拍手をもらう。
「素敵な演奏でした! 軽音ですか?」
「そうなんです、実はここに来るまでこのパートが弾けなくて悩んでたんです。でもこれを飲んだ時になんていうか……ビッと来たんです! 明日からまた頑張れそうです!」
そういうと店員さんはにっこりと笑ってミルクを抱いてくる。どこか満足げなその子をぎゅっとしてお会計をした。
「はい、330円ちょうどいただきます。ありがとうございました」
店を出てすぐ携帯で電話をかける。相手はバンドのリーダー的存在だ。
「もしもし? あのね、ソロパートひけるようになったの! 明日から楽しみにしてて!」
話しながら家路についた彼女を見送ったミルクは店の前の机にひょいとのぼって、満足そうに丸まった。
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