カフェ kitten(リクエスト作品)
小雨(こあめ、小飴)
とうまくんとチャロブレンド
ふとあるカフェの前で足が止まる。入口に猫が日向ぼっこをしている姿が目に移り、カフェの洋風な店構えと、三毛猫の和風な感じが若干のギャップを感じさせてくる。と、その店先にいた猫と目が合った。
そいつは背の高いテーブルに乗っているため僕と同じくらいの目線だ。触ってみたい衝動にかられ、ジリジリと近づいてあと一歩のところでするりと合間を抜け、猫はテーブルを降りた。あたかも
「こっちにこい」
と、言わんばかりにカフェの中へ入っていく。三毛猫につられて僕は、カフェの中へ入っていった。
店の中に入ると小柄な少女が店の奥に見え、店内には目視できるだけで10匹以上の猫が見える。猫たちは、思い思いに過ごしているように見えた。店内を入口につっ立って見まわしていると、それに気が付いた店員が声をかけてくる。
「いらっしゃいませ~。どうぞ奥のカウンターへ~」
愛想よくそう言われフラフラ~っとカウンター席に座る。座ると同時にメニュー表を渡され、ついでにロシアンブルーがメニューと僕の間に座った。入店時間が昼時を少し過ぎていたからか、店内には誰もいなかった。しかし、周りには猫たちがどんどん集まってくる。さっきの三毛猫はいつの間にやら、膝の上にまで来ていた。
「あの、ここは猫カフェなんですか?」
迫ってくる猫達にたじろぎ、思わず店員さんに聞く。するとこちらを向いてニコッと笑った。
「あぁ、私たちは全員店員なんですよ。みんなには接客をお願いしてますし、ちゃんとお給料も出るんです。人間は私一人ですけどまぁ、猫の手もって感じですかね! ……ところでお決まりですか?」
自然と注文を聞かれとっさに
「じゃあ、コーヒーで」
と口から出た。そういえば最近緑茶ばっかりでコーヒーを飲んでないなと思いながら膝の上でくつろぐ三毛猫をなで、ゴリゴリとコーヒーミルの稼働する音を聞く。そとの音は遮断されミルと猫、そして店員さんのお皿を洗う音だけが聞こえる。
「お待たせしました、本日のコーヒーはチャロブレンドです」
聞いたことのないブレンド名に首をかしげる。
「チャロブレンド? どこか海外のメーカーですか?」
店員さんはハッとしながら返答を返してきた、
「あ、お客様はご新規さまでしたね! 失礼いたしました。チャロというのはお客様の膝で接客をしてる三毛猫の名前です。メスなのですが、彼女が選んだ3種類をブレンドしたものが本日のコーヒー、チャロブレンドになります。ほのかな甘みと酸味、後から追いかけてくるわずかな苦みが特徴のコーヒーです。砂糖とミルクはご使用なさいますか?」
「いや、ブラックで大丈夫です」
コーヒーのふんわりとした香りが鼻をくすぐる。飲むと甘みと酸味、それと苦みと店員さんの言ったとおりの味がする。
「にゃー」
膝に座っているチャロがこちらを見上げながら一声鳴いた。まるで、
「味はどうだ?」
と聞いているかのようだった。
「おいしいよ」
そう返してなでてやると喉をゴロゴロと鳴らしながら満足げな表情をした。
「お会計を」
「はい、180円です。 丁度お預かりいたします、ありがとうございました!」
店を出るとすっかり空が赤く染まっている。
「よっしかえって残りの仕事もかたずけますか!」
気持ちの切り替えが完全にできた僕は、足取りを軽く会社に戻る。彼が見えなくなるまで入口で三毛猫のチャロは見送りをした後、あくびを一つして、店内に戻っていった。
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