9周目1話巻紙5話「『タカワクさん』-仮想市七不思議」
「すみませーん」
ゲーム内での私が自分の部屋から一階に降りる。玄関には、同じ学校に通っているであろう高校生がいた。
「どうぞどうぞ、ありがとうございます」
「お邪魔します!」
ゲーム内の僕は、僕の言いそうなことを自由に話す。実際、人と会ったらこんな感じだ。
「あれ? 他の人たちは?」
「まだですね。五人とも連絡はないですけど……」
「『仮想市の新七不思議特集』だから……しょうがないかもしれませんね。でも田舎の町でそれで学校新聞。集まってくるのはひとりでも十分ですよね!」
「よし! 約束通り、とっておきのを話しますよー!」
その高校生はリビングに荷物を置き、ソファーに座った。僕も向かいのソファーに座る。手にはノートとペンがある。
「お名前をここに……」
「マキガミナズナ。です」
僕の持っていたノートに丁寧に書く。『巻紙 なずな』と書くらしい。
「トウモトケイイチさんですよね?」
「はい。よろしくおねがいします。新聞部二年生です」
僕も巻紙さんの名前の下に「灯本 継一」と書く。
「灯本さん。よろしくおねがいします!」
巻紙さんは僕の目を見て、鼻から深く息を吐いた。私と画面の向こうの私はペンを握った。
『タカワクさん』って知っていますか?
知りません? そうですか……。
もしかしたら知っているかもと思ったんですけどね。大丈夫だったみたいですねー。
えっと。今から話すことはある人から聞いたことなんです。
その人っていうのが、江熊先生です。
新聞部の顧問で、もしかしたら「灯本さんも知っているかも」って思ったんですけど、よかったです。
まず、この話は何ヶ月か前になるんですけど……。
あるとき、江熊先生の授業があったあと、教卓にノートが忘れてあったんです。普通のノートだったんですが、使い込まれていて「何が書いてあるんだろう?」ってつい思っちゃったんですね。
それでちょっと中を見てみたんです。そしたら、
『高枠樹』
というタイトルで、下にはメモみたいにバラバラ書いてあったんですけど、それが、
「仮想市高校三年一組」
「七不思議に関連有り」
という感じで、まあよくわからない内容だったんです。
「ごめん! 誰かノート見てない?」
教室の外から江熊先生の声がしたんです。いつもおとなしい先生が、大声を出して。
それで、私とっさに……。ノートを隠してしまったんです。
教室に入ってきて、皆に聞いたり教室を歩き回ったりしたんですけど見つからなくて、「誰か先生のノート見つけたら教えてね。大事なものだから」
と言って帰っていったんです。
私そのとき「やってしまった」って思ったんですけど……。この気持ちわかりますよね?
……本当にごめんなさい。駄目なことだっていうのはわかっているんですけど『江熊先生の大事なもの』なんだと思ってつい……。
すぐ先生に返せばよかったんですが、そのまま家に持って帰ってしまったんです。
そして、「ダメだダメだ」と思ったんですが、中が気になってノートを開いてしまったんです。
ノートには色々なことが書いてありました。『高枠樹』『勝又勇』『灯本継一』などの人の名前や、『黒神石』『砂潟の洞窟』『岡越潮』など、仮想市の七不思議についても書いてありました。
どれも気になったのですけど、一番不思議だと思ったのが『高枠樹』という人? についてのページです。
『高枠樹』だけ、かなりの量が書き込まれていて、他のページにも名前が出てくるんです。『高枠さん』みたいな感じで。なぜか七不思議のページにも名前が出てくるんです。
『高枠樹』のページを最初から読んでみたんです。すると途中、気になる文章があったんです。
『願いを叶えてくれる』
「高枠さんに会うことで願いが叶う」
「新月の夜?」
「孤独を食う?」
「七不思議の近く」
「無限の坂の先」
「海の近く?」
こんな感じで書かれてたんです。
『願いを叶えてくれる』っていうが気になったんですけど、ほんと、何書いているのかわかりませんよねー。
あともう一つあります。
『巻紙なずな』
「2009年11月生まれ」
「黒神石で生まれる」
「七不思議に興味」
「2025年仮想市高校一年」
「利久比エリ」
この『巻紙なずな』という人って……私なんです。「黒神石で生まれる」とか「七不思議に興味」とか……。誕生日も同じですし、高校も同じです。私のことを書いていると思いました。偶然とは思えなかったです。
だけど「利久比エリ」というのがピンとこなくて、他のページを見るとありました。
『利久比エリ』
「アンドロイド」
「2000年7月作成?」
「園田浩二」
「本名 よつば」
「柔瑞希と接点?」
そして、これが一番ショックだったんですが、
「2009年11月黒神石で『巻紙なずな』になる」
と書かれていたんです。
その……言いたいことわかりますか?
この『利久比エリ』っていう人が、私の……前の人なんです。
何度も読んで読んで、そういうことだって思ったんです。
でもなんで江熊先生がこんなこと……。勝手に見ておいてなんですけど、江熊先生が怖くなったんです。江熊先生の妄想とかだったらいいんですけど……。私のことも書いてあったし……。
会うのがちょっと怖くなりましたね。
そして次の日。
「放課後……新聞部へ来てください……」
と私の後ろからぼそっと。
江熊先生のほうから声をかけてきたんです。
振り向くと、江熊先生はなぜかビックリしてたんですけど、ビックリしたのはこっちなんですよね。
怒られるのかなあ、と思って怖かったです。普段呼び出しとかはしない先生なので。
そして放課後。江熊先生のいる新聞部の教室に行ったんです。
開けると、江熊先生がいたんですけど……やっぱり驚いた感じだったんです。
「君……よく来ましたね……」
「はい?」
「ふふ……そうか君が……」
「先生? その、あのときのことで……」
「うん。大丈夫だよ。入ってどうぞ……」
正直キモかったというか。ニヤニヤしてましたね。
「その……、呼び出しておいて申し訳ないんですけど……。実は僕は『言ってない』んですよね」
「え?」
江熊先生が私を見てにっこりしていたんです。そして、
「『言ってない』っていうのはこういうこと」
と言った江熊先生の口が『動いていなかった』んです! でもはっきり聞こえたんです!
「え? え?」
「よかった……。やっぱり聞こえてるんですね……」
また口を動かさずに声が聞こえたんです。
「ふふ……ごめんなさい。もうやりませんから」
今度はちゃんと話していました。
「先生、今さっきのは……?」
「空間伝達です。まあ……なんで声が聞こえたかは、僕の話を聞いたらわかると思います。そこの席にどうぞ……。あっ、ノート返してね……」
よくわからなかったんですけど、とりあえず江熊先生の向かいに座りました。
「まず……『高枠さん』って知ってるかな?」
「えっと」
「ノートに書いてあったんだけど、まあ知らないよね」
「ちょっと待ってね……」
先生はそう言うと席を立って、棚を開けて何か探したんです。
「これだね……」
「去年の卒業アルバムなんだけど、これの三年一組に……。いるんだ。この人が『高枠樹』」
見たことあるようなないような、普通の顔でした。
「それでね? 不思議なのがここからで……」
先生はまた別の卒業アルバムを取り出して広げたんです。
「これは二年前の卒業アルバムなんだけど……。ほら、ここ」
先生が指をさした人物が、
「『高枠樹』……」
「そうなんです。必ず三年一組にいて……不思議ですよね? ちなみに留年したんじゃないですよ」
同じ顔で同じ名前で……。
「その前もその前も……」
先生は前の卒業アルバムを取り出しては、三年一組を広げて、高枠樹がいることを見せてきたんです。
「学校にある一番昔のやつも見たんだけど、やっぱり……いたんだよね」
「それで……さらに不思議なのが……」
先生が「去年」と「二年前」の三年一組のページを開いたんです。すると、
「あれ?」
いなかったんです。去年の卒業アルバムの方の高枠樹が消えていて、二年前の方にいたんです。
「さらにこれはね……」
二年前と三年前だったら三年前の方だけに、三年前と四年前だった四年前の方だけに、高枠樹がいたんです。
「二つ以上同時に見ると、昔の方だけにいるんだ」
「すごい……」
私はビックリしましたね。なんというか、こんなことあるんだって。
「仮想市のどこにでもいて、どこにもいない。それが高枠さんなんだ」
「それで……。この高枠さんなんだけど……」
急に江熊先生の顔が暗くなったんです。
「君は……高枠さんに会うとどうなるか……読みましたか?」
高枠さんに会うと『願いを叶えてくれる』。
「はい……」
「それはね……本当なんだ」
「僕が高枠さんに会ったとき……、僕の過去のことが知りたくて……それを願ったんだ」
「過去のこと……。君も気になりますよね?」
「それは……」
『巻紙なずな』『利久比エリ』が頭に浮かんだんです。
「そうですけど……先生はなんで私のこと知ってるんですか?」
「それはですね……。うん……。君から聞いたんだ」
「え?」
「長くなるしややこしいからあまり言えないんだけど……。高枠さんに会って、もう一人の君とも会ったんだ。それでね」
「でも、全て知ってるわけじゃなくて……。断片的にだけどね」
「だから……、君がもし自分のことを知りたいんだったら、高枠さんに会うしかない。会う方法は……知ってます」
先生がなにか確信みたいなものを持っているのが不思議でしたね。いつも自信がなさそうな感じなのに、人が変わったように話すんですよ。それが真実味があって……。
「知りたいです……」
「そう言うと思ってました……」
こうして、私は高枠さんに会う方法を聞いたんです。
それが複数あったんですけど、確実そうなのが、
「新月の夜。無限の坂を一人で進むこと」
で、それをやろうと思ったんです。
「今日……新月ですよね?」
「実は……行こうとしても勇気が足りなくて……」
「灯本さん。一緒に無限の坂に行ってくれませんか!」
「あれ……」
巻紙さんがあたりを見回す。
「灯本さん? これって……」
巻紙さんは立ち上がり、階段を上る。
私は部屋のドアを見た。
コンコン
ドアからノックがする。
ドアを開けた。
「あなたが……」
『巻紙なずな』が目の前にいた。
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