7周目3話江熊5話「過去に生きる宇宙人」
僕は……宇宙人です。その証拠は物として見せられるものではないのですが……。僕の話を聞いてくれますか?
「ええ。大丈夫ですよ」
ありがとうございます……。
僕の一番古い記憶です……。
僕は透明な膜の内側に寝ていました。意識ははっきりして……両親や白い天井をぼやっと見ていました。
……地球の年齢で言うと一歳くらいでしょうか。でも、そのときは自分の意志で会話ができていました。おそらく……五歳くらいの会話はできていたと思います。声ではなく空間伝達でですけど。
きっと地球の人と比べて成長が遅いんでしょうね。実際僕は他のみんなと比べて小さいので……。見た目がほぼ同じなのは奇跡だと思います。
それで、色々なことを学びました。物語とか歌とか数とか。立つ歩くなどの方法も教えてもらっていた気がします。
……ある日、あたりはしんと静まり返っていて起きたのです。ずっと長い夢を見ていたような気がしていたような……。
目を開けると見慣れない茶色か黒色の天井に、二人の男女が僕を覗き込んでいました。両親ではありません。よく見えませんでしたが、顔が違ったことはわかります。
そして……その後泣いたような……また寝てしまったのか……。
……気がついたらまた別の二人で、三十か四十歳くらいの男女がいました。今度は白い天井で、ふかふかした毛布のようなものの上に僕はいました。
「マスミ! 起きた?」
女性の人が気がついたらしく、僕にそう言いました。
ですが、その当時は何と言っているのかわかりませんでした……。「マスミオキタ?」「マスミハイアーン?」とかの謎の言葉に僕は戸惑っていました。空間伝達をしようとも声は届かないですし、僕は身じろぐことしかできなかったので、仕方がなく色々なものを学ぼうと受け入れていきました。ただ不安でよく泣いていたと思います……。そのたびに二人の男女が僕を抱きかかえたり……頭をなでたり……。最初は知らない人で怖かったのですが、悪い人ではないのだと思えるようになりました。
「最初のお父さんお母さんはどこに行ったんだろう?」
「ここはどこなんだろう?」
「『マスミ』って何だろう?」
ずっとそういうことをぼんやりと思っていました。耳に流れてくる音を聴いて、新しい両親に話してみたり、歩く姿を見て立ってみたり……。そのたびに二人が驚いてくれるので嬉しかったです……ね。
そうして今の僕になるわけなのですが……。僕の心はまだあのときにあります……。
今の両親には感謝しています……。もちろんこの場所も好きです……。しかし……。
僕は……忘れられないのです……。
ふと思うんです。この記憶がつくられたものなんじゃないかって……。今までの記憶がすべてただの夢だったならば……。僕は幸せに暮らしていけるのかと……。
「……みなさん?」
江熊さんがあたりを見回す。
「どうして……ここは……」
江熊さんが立ち上がり階段へ向かう。
「もし……」
私は部屋のドアを見た。
コンコン
ドアからノックがする。
私はドアを開けた。
「……」
『江熊真純』が目の前にいた。
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