6周目4話勝又5話「月裏への道」

 実はずっと探しているものがあるんだ。

 それは『月裏への道』……。どの世界にも必ず一つはあるはずなんだけど、みつからなくってねえ。

 月裏への道は世界によって行き方もそれぞれだから……現地の人たちに聞いて回らなきゃならない。

 あるときは魔王を倒すことだったり、異次元への門を開くことだったりする……。

 ただ、一度も成功したことがないんだ。なぜかって?


 ……ボクを狙う『悪魔』がいるんだ。いつもいいところでその悪魔に負ける……。

 ……そしてその『悪魔はボク』なんだ。いや、ボクは悪魔じゃあないよお。『ボクから生まれた悪魔』ってことね。


 その悪魔は最初の異世界から存在したんだ。だからボクが転生する前にはいたはず……思い出せないけどね。そして月裏への道も悪魔と同じく『知っていたこと』なんだ。


 ……それで何の話だっけ? ああそう『月裏への道』だったねえ。

 実は『転生前のボクに戻る』ためにその道が必要なんだ。

 月裏への道にはある昔話があってねえ。ま、これもなぜか知っていた話なんだけどね。


 月裏への道は月の裏につづいていると太古から信じられていた。特に新月のときに現れやすい。月の裏まで到達できた者はこの世界の支配者となれる……と言われている。

 祖国の戦争から必死に逃げる、とある青年が、いつの間にか月の光の上を歩いていることに気がついた。行くあてのない青年はその道を進んでいった。


 しばらく進むと声が聞こえてきた。

「わたしのもとに来い……。進むために捨てる者、戻るために拾う者よ……。すべてを捨ててわたしのもとに……」

 青年が一歩進むたびに色々なものが捨てられていった。服や金やその他の持ち物、耳も目も使えなくなり、家族や会った人たちの記憶も捨てた。最後に命を捨てて魂のみになった。青年は魂のまま道を進み、声の主へとたどり着いた。

「わたしはこの座を捨て、高次の存在になろう。君にこの座を渡そう……」


 青年は月の裏の主となった。



 っていうお話さ。

 それで、ボクが月裏への道を探しているのは「月の裏の主になりたいからじゃあない」んだ。その道中の『捨てる』っていう部分。これが欲しい。

 ボクはこの異世界を転生し続ける……この運命を捨てたい。何もかも捨て去って、終わりにしたい。


 ……。死んでも復活するんだ。戦って、助けられて、誰かが死んで……。


 何度も何度も勝って負けてを繰り返して。何が欲しかったのかすらわからない。

 なんで生きているんだ! クソッッ!


 ……。ごめんごめん。異世界を旅をしてきて、色々楽しいこともあった……。だけど、ボクはこの無限に耐えられないみたいだ……。月裏への道を探さずに、異世界でゆっくりするのもいいのかもしれない。悪魔も忘れてゆっくりと……。


 だけど、それは気休めにしかならない。向き合おうって思ったんだ。ボクは最初から何か目的があって異世界を旅している。そのヒントが『悪魔』と『月裏への道』なんだ!


「……あれっ!」

 勝又さんが驚いた顔であたりを見回す。

「キミ……。どこに行ったんだ? みんなも……」

「……二階に誰かいるのか?」

 勝又さんが階段をゆっくりと上る。

「明るい……これが道なのか……」

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