6周目1話巻紙3話「二つの失踪事件-仮想市七不思議『砂潟の洞窟』『黒神石』」
いつもの人たちの中に、いつもいたはずの人がいない。『高枠樹』の姿が無かった。
「みなさん! この仮想市であった『二つの失踪事件』について知っていますか?」
巻紙さんが元気に周りを見ながら聞く。
「いえ……知らないですね」
「そうですか。けっこう話題になったのですけど……。聞けば思い出すかも知れませんねー」
まず日付は四年前の二〇二一年の八月! その月に二つの失踪事件が起きたのです!
一つが『黒神石失踪事件』です。
黒神石付近で、ある男子中学生が失踪したという事件です。
そしてもう一つが『砂潟洞窟失踪事件』です。これも同じく男子高校生が失踪しました……。
私はこの『二つの事件がつながっている』と思います! 世間的には個別の事件扱いですけど……。
まず『黒神石失踪事件』でいなくなったのは『柔優(ヤワラマサル)』さんです。
当時十五歳だった優さんが、黒神石近くで見られたのが最後に、いなくなってしまったのです。そして、その『最後に見た』のが私です。当時十二歳で、優さんともう一人いたはずなのですが……。未だにわかっていません。私はその人が黒神さま……。えっと、話が逸れるのでやめておきますが、優さんと最後に一緒にいた人物を私は見ました。
そして次に『砂潟洞窟失踪事件』です。『形本灯道』さんが行方不明になりました。当時十七歳で『学生新聞の取材のために砂潟洞窟に行った後、帰ってこなかった』とされています。
仮想市みたいな田舎で、一気に二つの失踪事件が起きたら騒ぎになりますよね? 誘拐だとか家出だとか自殺だとか神隠しだとか……。夏休みの季節なのでそういうのだったのかもしれません。
未だに二人は見つかっていない……はずです。その、情報があまり出てないのでもしかすると見つかったのかも知れませんけど……。
『二つの失踪事件』はわかったですよね? ここからが話したかったことで『二つの事件がつながっているのではないか?』ということです。
『砂潟の洞窟』は仮想市七不思議の中でもけっこうな噂がある場所なんです。たとえば『謎の博士の研究所がある』とか『悪魔が住んでいて気を狂わせてくる』とか『謎の生物が住んでいる』とかです。
私も行ってみたんです。形本さんがいなくなってすぐ。もしかしたら黒神さまと関係があるんじゃないかって。
そこで見つけたのがこれです。
巻紙さんはカバンから大事そうに何かを取り出して置いた。『優』と書かれた名札がついたキーホルダーだった。
私はつい気になったものを拾うクセがあって……。これが地面に落ちていて、妙に新しくて……。絶対何か関係がある物って思ったんです。
そしたら、黒神石失踪事件でいなくなったのは『優』さんじゃないですか! きっと柔優さんも砂潟の洞窟に来たんだと思います。そのとき黒神さまか悪魔かの逆鱗に触れ……。失踪したのだと……。
うーん……。ごめんなさい。何か自分で言っていてそんなことありえるのって思っちゃって……。その失踪した二人にも失礼かなって急に思っちゃって……。
巻紙さんは急に落ち込んでしまったようだ。気分の浮き沈みが激しい人だ。
「その、キーホルダーって警察とか誰かに相談しましたか?」
「……してないです。その、黒神石のときに大人の人から色々聞かれて……。そのときに言えばよかったんですけど……、こわくて……。ごめんなさい……」
今にも泣きそうになっている。何か嫌な思い出があるのだろうか。
「……ごめんなさい。その、私は誰かに話したかったんです。このキーホルダーが『関係がある』ことと『関係がないこと』を……。関係がないならそれでいいんです。私の考えすぎです。だけど、関係があったら……。なんであのときはっきり言わなかったんだろうって後悔なんです……」
「私が黒神石で生まれたこととも何かつながっているような気がして、私は……」
巻紙さんはうつむいてしまった。僕は何を言ったらいいのかわからなくなってしまった。
「巻紙さん? あなた考えすぎよ。それが関係しなかったとしても、あなたの生まれたこととは関係ない。そして、きっと関係ないと思う。たまたま『優』っていう名前がかぶっただけ、何人『優』って人がいると思うのよ。それに『優秀』って意味でのタグかもしれないしね」
柔さんが優しく話しかけた。
「きっとあなたはとてもつらい思いをしたの……。いいの、人間は物語をつくる生き物なの。私には七不思議のことはわからないけど、その話は巻紙さんの想像でしょ? 幽霊や不思議は私たちの勘違いや思い違いでつくられるの。巻紙さんの生まれの話も、私は他の人から聞いただけだけど、素敵な物語よね? きっと何か別の理由があるのよ……」
「すびばせん……」
「いいの、今は……」
優しく話す柔さんに感極まったのか、巻紙さんは泣いてしまった。
しばらくして、巻紙さんが落ち着いた。目は赤くなっていたが、顔はスッキリしたようだった。
「……ありがとうございます。『ヤハタ』さん!」
「いえいえ……。『柔優』って人、見つかるといいわね……」
柔さんは僕を見ながら微笑んだ。
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