5周目3話勝又4話「『サン・ジャイル』だけど質問ある?(1002)」

 自己紹介のときに『勝又 勇』って言ったけど、実は本名じゃないんだよねえ。本当は教えてあげられないけど、この場のみんなには教えてあげるよ。嬉しいだろう? ハハッ!


 ボクの本当の名前は『サン・ジャイル』って言うんだ。

 さらに、異世界を旅して来たボクに質問があるなら好きなだけ答えてあげようじゃないか。さあ、どうだい? 質問がある人ー。


「ハイ!」

 真っ先に手を挙げたのは巻紙さんだった。

「異世界の中で一番楽しかったところはどこですか?」

「いいねえ。そういう質問が一番いいよお」

 勝又さんはニッコリと笑った。


 そうだねえ、一番楽しかったってなると難しいなあ。なんたって、自分でも数えられないくらい旅したからねえ。


 でも一番印象的なのは『初めてモンスターを倒したとき』かなあ。あれはもう必死だったね。とにかく自分の本能のままに動いていた……とても自分って感じの思い出だねえ。


 楽しかったこと、楽しかったこと……。ああ、『仲間』もあるなあ。いつも転生した後は孤独だったから、仲間をつくるのは大事なんだよお。

 助け合って戦って。恋もしたり裏切られたりもしたなあ。


 ああ、あと仲間を『つくった』こともあるなあ。あれも忘れられない。


 ある世界でボクは技術者だったことがあってね。惑星の寿命が迫るっていう危機にあったんだ。それで惑星からの脱出のために宇宙船をつくったのさ。ただ事故があって他の惑星に不時着。助かったのはボク一人で、近くにあった洞窟に住んだのさ。

 その惑星はある程度文明も発達して平和でねえ、原住民も優しくしてくれたよ。でもいずれ『悪魔』が襲ってくるのはわかっていた。

 ボクは材料を集めて、色々な機械をつくったのさ。それで……、そう人造人間! 戦闘もできるようにしたかったけど、十分に心が発達したからなんだかかわいそうになってね、お手伝いさんになっていたけど……。たしか名前は『よつば』だったかな。いい思い出さ。

 こんな感じでいいかな?


「はい! スゴイ! スゴイですね!」

 巻紙さんは手を合わせて感動している。たしかにスゴイ話ではあるけど……。


「みんなも遠慮せずにさ! どんどん質問してきていいよお」

 勝又さんが僕らをニッコリと見回した。

「俺は特に無い」

「すみません……じゃあ僕が……」

「おっ、キミい。江熊くんだっけ?」

「はい。サン・ジャイルさんって普段どうやって生活しているんですか?」

「うん?」

「その、職業とか……」

「ああ! 職業ね! 色々してきたからなあ……」


 そうだなあ。戦闘職も支援職も技術職もやってきたからなあ。

 『多重転生者(マルチリインカーネーター)』とかどうだい?


「はあ。そうですか……」

「うん! 今つくった職だけど、しっくりくるなあ!」

「その……。今の世界での職の話です」

「うん? だから『多重転生者』だよ?」

「あっ……。もういいです。ありがとうございました……」

「そうかい。キミもどうだい、多重転生者。やりがいがあるよお」


「それで、キミは何かあるかい?」

 げっ、僕を見てきた。質問なんて考えていない。でも何か言わないと気まずくなりそうだ。

「そうですね……。勝又さんが多重転生者なら、その証拠というか、証明できるものとかってありますか?」

「『サン・ジャイル』ね。証拠かあ……。今話したことがそのまま証拠みたいなものだけど……」



 ああ! そうだ。キミたちこれは見たことがあるかい?

 たしかここに……。あった!

 『言語卓上計算機』略して『言卓』さ。

 一見普通の電卓なんだけど、これが計算するのは言葉なんだ。

 例えば『ハュチェギョ』と『翼樹紙』を組み合わせると『ユーモア弾』になる。

 『肉抜きフクロウ』から『生に至る病』を引くと『乙乙乙乙』になる。


 言語を使っているとこういう言葉の計算を自然にできるんだけど、なぜそうなるのかは説明できないよね? 言卓はそこも織り込み済みで、計算結果になる確率も出してくれる。最初のは八割で『ユーモア弾』になって、次のは四割で『乙乙乙乙』になるのさ。


「はあ。ちょっとよくわからないですね……。その、例えに出しているのが知らないものですし」

「うーん。ごめんねえ。これベタ語にしか対応していないみたいなんだ」

「ベタ語? ええっと……。じゃあ『お年寄り』マイナス『男性』とかってできますか?」

「それくらいできるよお」

 勝又さんは手元の言卓を叩いた。

「六十五パーセントの確率で『お婆ちゃん』だ。次に多いのは『利久比エリ』で五十パーセント。どうだい?」

「まあ……そうだと思います……」

「だろう? この世界には無いものを持っている。それが証明さ! ハハッ!」


「それで、キミはどうだい? 質問とかは?」

「俺か? ……さっきからふざけたことを言っているが。ふん、そうだな。今すぐここで異世界に行ってくれないか? 方法もわかるんだろう?」

「うーん、できるけど……。ビックリするだろうからねえ」

「できないんならいいんだぜ」

「ハハッ! ボクにもそういうときがあったなあ。いいよ、よーく見ていてね……」


 そう言うと勝又さんは黒い四角い箱を取り出した。

「うわっ!」


 箱が急に赤色になったかと思うと、目の前が真っ白になった。僕はとっさに目を閉じた。


「眩しいっ!」

「おいみんな大丈夫か!」

「はい!」

 みんなの声がする。しかし、勝又さんの声はしなかった。

 おそるおそる目を開けると、ぼんやりとした視界の中でもわかった。勝又さんがいなくなっている。


 徐々に視界が元通りになった。みんなも目を開けている。


「いやあ、ちょっと魔王倒してきたよ。これお土産」


 いなかった勝又さんがさっきと同じ場所に座っていた。そしてテーブルには謎の革袋が置かれていた。

「あれ! いなかったのに……」

「言っただろう? ビックリするって」

「ふう……。ちょっと疲れちゃったな。他に質問があるなら、後で聞くよお。じゃあ少し失礼……」

 勝又さんは目を閉じて寝てしまった。

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