4周目2話高枠4話「超伝導! 絶対零度レース K-0」

「次は俺の番か」

 高枠さんはテーブルの下から黒い箱を取り出して置いた。


「これはな『超伝導! 絶対零度レースK-0』ってゲームだ」

「えっ! 『超伝導! 絶対零度レースK-0』ですって!?」


 いきなり大きな声を出したのは江熊さんだった。

「ほう『ケーゼロ』とは……。懐かしいじゃないか」

 勝又さんも話に乗ってきた。僕はやったことがないゲームだ。

「そう、大人気ゲーム『ケーゼロ』だ。二人に一人はやったことがあるっていう人気があったにも関わらず、未だにリメイクされないゲームだ」

「ええ、知ってます。権利関係とかプログラムの複雑さなどでできないんですよね」

「ハハッ! まああれ以上ハマったゲームはないよ」

 三人で盛り上がっている。


「それでだな……。この『ケーゼロ』は『例のアレ』なんだ」

「「なんだって!?」」


「例のアレっていうのは……、まさか『ナンバーナイン』ですか?」

「ああ……。シリアルナンバー六十四桁の末尾が九以内でそれ以外がゼロ」

「『悪魔のケーゼロ』『ナンバーナイン』……。まさか本当にあったとはね……。どうやって手にいれたんだい?」

「それは言えないな……。ただ、犯罪とかは犯していない。正規の方法で手に入れたものだぜ」

「僕はどっちでもいいですよ! やってみませんか?」

「もちろんだ」

 高枠さんは部屋のテレビに持ってきたゲーム機をつなげ始める。僕は持っていないゲーム機だった。


「あの、『ケーゼロ』ってなんですか?」

「えっ、知らないんですか。まあ、世代的には前になるから仕方ないですよね」

「『ケーゼロ』正しくは『超伝導! 絶対零度レースK-0』は名作ゲーム機『トラペゾヘドロン』の人気ゲームです。まあ、人気と言ってもマニアなファンの中だけなのですけど……。高枠さんは熱心なファンみたいですね。それとこのゲームのジャンルはロールプレイングレースゲームなんですよね、珍しいことに。今そんなジャンルまず無いですしそれに……」

「あっありがとうございます! やっぱり後で調べてみます」

 江熊が嬉しそうに説明していたけど、長くなりそうだし、早口で頭に入らなかったから話を切り上げた。

「そうですか……」

「『ナンバーナイン』というのは?」

「ええ、ケーゼロにはシリアルナンバーが割り振られているのですが『ナンバーナイン』は一桁目以外全てゼロのものをさします。本当は開発用のものなので一般には流通していないのですが、それがどういうことか流れてしまったんです」



 ケエエエイゼロオォゥ!

 ゲームが起動した音がする。高枠さんがコントローラーを江熊さんと勝又さんに配る。

「それで『ナンバーナイン』の特徴は!」

 そう言うと江熊さんは目を閉じて座ったまま後ろに倒れてしまった。



「え! 大丈夫ですか!」

 気絶してしまったのだろうか。周りを見ると高枠さんと勝又さんも目を閉じてうなだれている。僕と巻紙さんは心配そうに三人を見た。

「大丈夫だよ」


 テレビから声がする。これは、高枠さん?

「『ナンバーナイン』の特徴、それはね『ゲームの中に入れる』ってことさ。まさか本当だとはね。ハハッ!」

「ええ。身体はセルシウスですか。僕はファーレンハイトの方が使いやすいのですが、まあいいでしょう」

「じゃあ乗ったらスタートだ」

 ゲームのキャラが動いて宇宙船に乗る。画面の中の三人が今この部屋にいる三人なのだろうか。ゲームのアナウンスが響く。


 スリー! ツー! ケエエエイ!

 ゼロオォゥ!


 三台のマシンが宇宙に飛び出した。

「『ケーゼロ』の序盤のセオリーは三通り。惑星グンシャンでマシンの改造。ル・ルエ小惑星帯でのモンスタードロップ狙い。ラキオラ船団で依頼をこなす……」

 三人が別々の方向を向く。

「ああ、俺はケルビンだからモンスター狩りだな」

「当然、ファーレンハイトは交渉が上手いからね」

「セルシウスは機械に強い……」

 三人は文字通りゲームの世界に入ってしまっている。

「巻紙さん。やったことあります?」

「ぜーんぜん」



「うおおおおお! テルスター台風に乗って惑星脱出!」

「ぬるりと来たぜ……。レアドロライトインドジンブースター……」

「一番の近道は遠回りだった……」

 みんな思い思いのことを言っている。そして……。


「「「うおおおおおおお!!!」」」


 ゴールの惑星まで接戦だったのだろう。三人が最後の惑星に向けて飛ばす。


 ゴール! ゴルゴルゴルゴルゴール!!


 ゴールはほぼ同じだった。


「みんなありがとう!」

「くっ、ケルビンに負けた……」

「フン。神に感謝」

 三人が握手を交わす。やっと終わったのか。



 部屋の三人が一斉に起き上がった。

「ふう……、これだけやって一時間か……。三年は狩ってたんだがな」

「いやあ、異世界を旅してきたボクだけど、あの非人道的な加速は久々だったね。ハハッ!」

「みなさんやり込んでますねえ。まさかあの世界でも牛転がしバグが使えるなんて......。もう一回やりませんか?」

「えっ!」

 巻紙さんが立ち上がった。

「もういいでしょ! みんな!」

「ごめんなさい……。あと一回だけですので……」

「電源切るよ!」

「うっ……」

 三人はしぶしぶコントローラーを置いた。プレイ中に電源が切れてしまったら、どうなるんだろう。

「そうだな。また後でやろう」

 高枠さんが電源を消そうとボタンを押す。しかし、画面は消えなかった。


「あれ?」

 何度も押す。しかし画面には宇宙の映像が映ったままだ。

ケーゼロのソフトを抜く。しかし消えない。

「ア……ア……」

 画面から声が聴こえる。


「どうして消えない!?」

「プラグ抜いてもだめです!」

 宇宙の奥から何か黒い物体が近づいている。

「まさか『ナンバーナインの呪い』だって!?」

「かもしれん!」

 画面の黒い物体が大きくなっていく。


「うおおおおおおお! 身体がっ! 動かんっ!」

 三人の姿が、さっきまでのキャラクターの姿に変わっていっている。

「助けてえええ!」

「灯本クン! それを壊してくれええ!」

 三人が僕を見る。

 僕は『ケーゼロ』を拳で思いっきり何度も叩く。

「だめです! 硬すぎます!」

「両肘を使えッ!」

 僕は『ケーゼロ』めがけて両肘を合わせて打ち付けた。


 バキッ!


 画面は真っ暗になった。しびれる肘の下に、ヒビが入った『ケーゼロ』があった。


「ふう。助かったぜ」

「ああああ……。ナンバーナインがああ……」

「まあまあ。またいつかやろうよお」

 江熊さんが『ケーゼロ』を手に持って泣いてしまった。

「肘が痺れて……。とにかく、みなさん無事でよかったです」

「ほら、ゲームはおしまい! 次いこうよ」

 巻紙さんが江熊さんの背中を叩いた。

「まあ『ナンバーナイン』は壊れちまったがよお、灯本もいつか『ケーゼロ』やろうな。教えるからよ。じゃあ次行こうぜ」

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