第2話
校門に入るとすぐ「おせーぞ!」
誰かが上から叫んだ。辺りを見回すと4階の音楽室の窓から清水くんがこちらを見ていた。
中2・3の時クラスメートだったが、1年の頃からお互いのことは知っていた。
運動神経が抜群で背が高いモデル体型。男子バレーボール部のエース。仲良い連中といつも休み時間に騒いでいたが、体育委員であり、仕事はきっちりしていた。
そしてクラスの中心にいた。
悪い奴ではなく、いじったりされたこともあったが俺もそれなりの仲だった。
3年からはいじりが加速したこともあり、あまりいい印象はない。
身長がそこまで高くなくそれで清水にいじられた俺は、クラスの中心にいたことと合わせて
憧れと少し含むところがあった。
よく見ると清水の顔に傷跡がいくつかできていた。ん?とは思ったが気にはとめなかった。
玄関口から校舎に入る。待ち合わせの教室は1年3組の教室らしい。中に入ったが、
奇妙だ。静かすぎる。とてもじゃないが同窓会の会場とは思えない。そうして考えていると教室の前まで来てしまった。
遅刻は多かった。朝練の時はほとんど遅れてたし、それでクラスメートをキレさせたこともある。通常日も遅く来てしまい、玄関で朝学活まで待たされる常連でもあった。
そんなわけでほとんどは「また遅れたのかよ〜。」といじられるくらいにしかならないが、
今回もそうであってくれ。ここ来てキレられるとかマジでやめてくれ。
あまり中学校で人間関係はうまく行ってなかった。クラス全員で遊ぼうという集まりにも参加しなかった。時間に間に合わなかったこともあるが、正直億劫だったのが一番大きい。
行ってもいじられて不快な思いをするだけになるのでね。
そんな僕も久々に中学の人たちの顔を見たい思いが億劫さを上回り来たわけだが、それで怒られるのは萎えるだけである。いや自分が遅れたのが悪いんだが、キレないでくれ。
そう思いながらドアを開ける。
部屋には3年の時のクラスのみんな‥‥ではなく女子だけ。しかも全く知らない人ばっかり。
その場の全員「は?」って顔をしている。しかもなぜか三段ベットがある。6つも。3年のときに配られたタブレットの保管ボックスも形が変わってしまっている。
「ここうちらの部屋なんだけど」女子の1人が苛立ちを含んだ声で言う。
すみませんでした〜と言いながらドアを閉める。
教室を間違えたのか?一応招待状を確認する。が、部屋はここであってる。
隣の教室も見てみよう。もしかしたら誰かが間違えてそのまま使ってるのかも。
隣も開けてみるが、開けた瞬間にわかった。ここもさっきの教室と同じだった。誰もいなかったが、内装はさっきの部屋と変わりない。
どうなってんだよ〜!!と心の中で叫ぶ。状況が全くわからない。
そうしていると、山崎くんを見つけた。
山崎蒼馬。クラスが一緒になったことはないのだが、1年の初めから仲が良かった友達だ。
自分をクラスの盛り上げ大将と自称し、実際行事のときにはクラスを盛り上げていた。
1年の時は生徒会選挙に立候補していて、一番面白く話をしていた覚えがある。
投票の時には自分の一票はこいつに入れた。(ちなみに落選していた)
男女関係なく話せ、シンプルに面白い奴だ。
中2からは塾が同じになって、話す機会が爆増。中3の時は塾の志望校別コースの会場が一緒だったので、電車で帰りながらワイワイ話していた。
高校生になってからもたびたび遊んだことがある。
山崎くんに話しかけた。
「なあなあ、今同窓会やってんじゃねーの?なんで三段ベッドが置いてあんの?」
「は?何言ってんだ?状況わかってないのかよwとりま俺らの部屋来いよ。今俺以外いないから。つかやっと来たなお前。」
蒼馬の部屋に着くと、本当に誰もいなかった。学校の4階なので見晴らしがいい。
窓の外は今にも雨が降りそうだった。黒い雲で空は覆い尽くされている。
俺は変形したタブレットの保管ボックスのことを聞いた。
「この中には何が入ってるんだ?」
「それもわかんねーのかよ。見てみろよ」
開けた瞬間絶句した。中に入っていたのは‥‥、槍だ。おもちゃや撮影用の小道具かとも一瞬考えたが、そうじゃない。本物。武器だ。刃の付いた槍、殺しの道具。
開いた口が塞がらない。
「なんでお前がこんなの持ってんだよ。銃刀法違反だろ。どうなって‥」
「お前こそ何言ってんだよ。少なくともみんなにとっては当たり前だろ。」
「いやいや。ここは殺しあってる世界かよ。持つ必要もないだろ。そもそも。」
「その武器持って作戦遂行しにいってんだよ俺の部屋の奴は。」
??????????どういうことだ?戦争でもしてるのか?だとしたら誰と?
頭のなかが?で埋め尽くされていく。蒼馬は何か喋っている。
でもそれすら耳に入ってこない‥。
寝よう。これは夢だ。変な夢を見ることはよくある。家に帰ってアニメでも見よう。
部屋を出る。3年4組の教室だった。3年の時はここで授業を受けていたのだ。
階段を降り、玄関を出る。外は大雨が降っていた。雨の音でほとんど何も聞こえない。
傘は持って来てなかった。家に少しでも早く帰りたい俺は、走って家に向かうことにした。
蒼馬は玄関まで追いかけ、そこから何かを言っていたらしい。でも、雨にかき消されて俺には聞こえていなかった。
校門を出て来た道を戻る。少し走るとすぐに学校は見えなくなった。
通学路の途中には生垣のある少し立派な家がある。古くからの名家だったりするんだろうか。その辺りに着くと、不意にさっきの嫌な気配がした。背中に少し寒気を感じる。一旦立ち止まり、辺りを確認する。周りには何もいない。
「にゃ〜」道路の逆から猫の声がした。
少しほっとした。猫や犬の声は僕を落ち着かせる。寒気も落ち着いた。この辺りは野良猫も多い。ただの野良猫だろうと思った。その一瞬は。
が、そんなものではなかった。
嫌な気配が一気に強まる。血の気が一瞬で失せる。足の力が抜けていく。道路の逆から出て来たのは…
大きな大きな黒猫。ライオンくらいのサイズ。鋭い牙と爪。口からよだれを垂れ流している黒い猫。
UMAかと思ったが、そういうものとも違う。明確な殺意。目の前の食事–僕–を早く食べたくて仕方ない、早く喰い殺したい。そういう目線で僕を見てる。
逃げたい。逃げ出したい。逃げなきゃ死ぬ。逃げなきゃ。逃げろ、逃げろ!!頭も心もそう叫ぶ。でも、体が動かない。恐怖で呼吸が荒くなる。心が体に動けと叫ぶ。だが、できたのは、足の力を奪い、無様に腰を抜かすことだった。
猫が一気に距離を詰めてくる。死ぬ。そう思い目を瞑る。
目を開けた瞬間見えたのは…血。猫の血。俺のじゃない。猫を見ると、猫の右前脚が切られていた。そして、俺に尻を向け、「シャアァァ!!」と鳴いていた。
しかし、鳴き終えたその刹那、その一瞬で全ての足が切り裂かれた。
そして、もう一度鳴く前に体も斬られ、息絶えた。
猫を切ったのは‥‥、
「何してんだ!!無様に殺される気か!!」
本田紫音。舌が震えながらも
「今の‥何?どうなってんの?」俺は聞いた。
「事情がわかってねーのか。わかった、説明する。ここだとあぶねーから学校戻るぞ。ついてこい」
紫音が学校に戻り始める。僕は紫音のすぐ後をついていった。結果、俺はすぐに学校に戻って来てしまった。
そこで明かされた事態は、深刻以外の何物でもなく、
僕がショックを受けるには十分すぎるものだった。
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