第1章 僕の開戦

第1話 

僕の友達は、8時間寝ないと頭が回らない、と言っていた。

かくいう自分は、6時間睡眠でも問題ないと思っていた。

だが、意外と意識して睡眠時間を取ってみると、頭の回転が速くなっているように感じた。宿題の進みも速くなったし、将棋でもミスが減り、

盤上全体を見て好手を指せるようになった。読みの精度も上がった。

その分、寝坊してしまうことは増えたが。


今は7/31。夏休み真っ只中である。

朝起きてからいきなり「やってしまった……」と状況を嘆き、

頭を抱えているのは沖矢亜久斗、16歳。高校2年生である。どうしてこうなった。


実は今日、僕の通っていた中学校にて、

現高校2年生の世代の同窓会が9時から開かれることになっていた。

だが、昨日夜0:30までアニメを見てから寝た俺は、

頭の中からすっぽりそれが抜け落ちていたようだ。いつも通りに8時間寝た結果、

起きたのは8:40。僕の家から学校までは20分ほどはかかるため、遅刻はまぬがれない。

「やってしまった‥‥」とは思うが、「どうあがいても遅刻」の状況なら

「どんなに遅刻してももうええやん」と思ってしまう。

マイペースかつ自由、時間にルーズな僕はいつも通り準備をすることにした。


夏休みは自分の朝食は自分で作ることが多くなった。両親は共に仕事に、弟もサッカーの

ジュニアユースの練習や試合に行っていることが多いからだ。オムレツを作り、トーストを焼き、サラダと食べる。おかげで卵料理を美味しく作れるようになった。作れる料理の

バリエーションは夏に入って大幅に増えた。食べ終わり、服に着替えるとふと思う。

弟の練習なんてあったっけ?

服を着替えた後、歯を磨き外に出る。目の前には川と川沿いの遊歩道がある。

いつもは人がそれなりにいるものだが、今日は誰もいない。

対岸の広場でいつも集団でラジオ体操をしている

おじいちゃんおばあちゃんも1人もいない。

一抹の不安と疑念が生まれてきたが、まあ中学の友達には会いたいから中学校に行こう。

足を進める。

少しずつ、アスファルトのような色の雲が空を覆い始めていた。


中学の時の通学路を進めば進むほど、

1:15だった不安と疑念は1:2へ、不安が徐々に増えていく。

通学路に人一人っ子いない。誰もいないし、車も自転車もない。それどころか

通学路の家々に違和感しかない。

自分1人だけの別世界に来てしまったようだ。

それだけならまだマシかもしれない。1人でいるのは好きなので、そのシチュエーションを

楽しんだいたのかもしれない。だがそうはならなかった。通学路のそばに「くめひが」

と呼ばれ親しまれている小学校があるのだが、そこから嫌な気配がするのだ。

のような気配。

雲で空が半分覆われた。雨には当たりたくない。周りを警戒しつつ、中学に進む。


中学に近づけば近づくほど、違和感は増していった。

人が1人もいないのは変わらないが、

さっきの嫌な気配が周りの至る所から感じられる。周りを獣に囲まれたんじゃないかと思うくらいだ。とりま中学校は安全だろうし、そこに着いたらすぐ通報しよう。と考え、急ぐ。


クリーニング店の看板が見えてきた。もう学校に着くようだ。

すると、初めて今日

白装束を着ていて、緋色の丸い模様–血の雫が落ちてきたような模様–がお腹の辺りについている。首に切り傷の跡があり、どこかふわふわとした佇まいをしていた。

僕の知り合いとかではない。顔を見たことがあるわけでもない。

だけど、不思議と人を惹きつける何かを持っている。

多分クラスやグループの輪の中心にいて、いわゆる「青春」を謳歌していたような奴だろう。僕とは真逆だ。いつもクラスの輪から外れていた。輪の中心になんてなれなかった。入ることすら、なんか難しかった。

…いや、そんなことはどうでもいい。

こいつはおもちゃとかじゃない。

間違いなく。

やばい。落ち着け、俺。冷静になれ。一つ深呼吸。

だが、殺意や悪意といった類のものは感じなかった。

というか普通に話しかけてきた。少し自分を落ち着かせる。

「本当にあの中に入るの?」中学校を指してそういった。

「きみは今、大きな選択をしようとしてるよ。

あの中に入れば、きみを包んでいる奇妙な平穏は消え、残るのは困惑だけだ。

そしてきみは、訳も分からずこの絶望的な世界で地獄のような戦いに巻き込まれ、

死と隣り合わせの時間を半永久的に過ごすハメになる。」

えーと…何をいっているんだ?僕は同窓会に行こうとしているだけだ。

夢でも見てるのか?

「人が死ぬのは見たくないんだ。周りの異様な雰囲気に気づいているだろ?」

頬をつねる。イテッ!夢じゃない。こいつはなんなん?

「ここで引き返せば、少なくとも安全だ。君は無事に生活できる。

それとも、地獄への一本道を突き進むのかい?」

ほんとにこいつはなんや?宗教の勧誘かなんかか?

「すぐに引き返したまえ。選択肢なんてない。もう、

地獄かのような戦いに足を踏み入れる人を増やしたくはないんだ!

入った瞬間にもう戻れなくなる。今すぐ戻れ!」

うんざりだ、僕はこう返した。

「あなた、なんなんですか?何がしたいんですか?」

そう言って先に進んだ。

訳のわからない話にうんざりしていた。馬鹿馬鹿しい。なんなんだ、ほんとに。

2秒たってから後ろを見ると、その人は消えていた。


そしてついに中学校に着いた。

「おせーぞ!!」誰かが言った。玄関から待ち合わせの教室に入る。

入ってすぐに「?????」とならざるをえない光景。

そして、心の中では自分の叫ぶ声「どうなってんだよ〜〜〜〜!!!」


その目に映ったものは何なのか。


あの人がすごく必死に話していたのは確かだ。

あの人を信じて言われた通りにしていれば、絶望的な展開を味わうこともなく、

アイツらとの激突も、あの仲間たちとも会わず、じきに気づいただろう

あの力をそこまで使うこともなく、悠々と1人スローライフを送っていたかもしれない。

だが、俺はそちらとは別の選択をしてしまった。

時を戻し、選択を変えるなんてできやしない。

この選択肢からの展開で進んでいくしかない。

自分1人の選択だけでも、その先の未来は、大きな変化を周りにすらもたらす。

良い変化であろうと悪い変化であろうと。


この選択がもたらすのは、絶望や災いか、それとも‥‥‥。

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