最高に厭な小説(誉め言葉)の思い出

すずきまさき

貴志祐介『天使の囀り』を読んだ思い出

あなたは「もう二度と読み返したくないが、とても面白かった」という矛盾するような感想の本に心当たりがあるだろうか。

筆者にとっては、貴志祐介氏の著したホラー小説『天使の囀り』(以下同作)がそれにあたる。

同作は1998年6月に発表されたホラー作品である。なにぶん昔のことなのでうろ覚えながらもあらすじを記載すると、「とある密林地帯から帰国した探検メンバーが次々と不審な死を遂げる。残されたメモには天使の囀りを聞いた、との一節があったが──」というものである。

(余談ではあるが、いわゆる「美少女ゲームおたく」に分類される登場人物もおり、00年代頃に読んだ筆者にとっても「この描写、古くない!?」と感じるようなコテコテの内容だったことを付記しておく)

筆者が同作をとても厭な作品だと思いながらも忘れられないのは、作品全体に通底している(著者の前作にあたる「黒い家」などにも共通する)嫌な予感もさることながら、端的に言って、めちゃくちゃグロいのである。

作中のマクガフィンにあたるモノに「曝露前に恐怖を覚えていたものに対して強烈に誘引する」特性があり、お誂え向きに蜘蛛恐怖症(アラクノフォビア)の登場人物も居て──といった具合に、出発点こそ荒唐無稽なものの地に足の着いたエグい描写が繰り広げられるのである。

極めつけが本作終盤のセミナー施設への突入のくだりである。元々どの人物だったのかわかるのに、あまりにもおぞましく変貌してしまいそれがヒトだったとは思えない──そんな衝撃的な描写がありありと想像できる筆致で描かれるのである。

多感な時期にこれを読んでしまった筆者は、凄まじい傑作だが二度と読み返さないと誓ったのであった。

この感想文を読んでいる皆様にも、同じように二度と読み返したくない、でも面白くて忘れられない傑作の思い出はあるだろうか。

ぜひコメント欄などでおすすめしてほしい。

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