僕は自分を見付ける―他人の人生に成り代わった僕。新たな人生を歩む。
メリーさん。
第1話 失恋と後悔と
僕、
小一時間ほど前になるのだが、大切にしていた彼女にこっぴどく振られた。
投げつけられた言葉に対して、ムッとして自分の感情のまま解き放ったセリフが最後にとどめを刺した。
「最低。そんな事を思っていたなんて思いもしなかった。・・・やっぱり別れよう。」
「あ、ちがっ・・・」
もはや言い返す言葉もなく、あっけなく関係は崩壊した。
同棲、その先の結婚も視野に入れていたはずの彼女との最後は本当にあっけなかった。
自分の部屋に増えていった彼女の私物について受け渡しの方法や、互いの部屋の合鍵を返してもらったりと事務的な話を経て、遂に物語は完結した。
大切にしていたにもかかわらず、最後の最後まで自分からは何も言い出せず、彼女の何の感情も写していない目線が怖くてそそくさとその場を去った。
ただ一緒にいて欲しいと願っていたのに。何て無価値なんだろう。そう思う。
そして誰もいない空間で一言呟くのだ。
「あんなこと、言わなければ良かった・・・」
ただ後悔するばかりで、目的もなく彷徨い途方に暮れる。
覚束ない足取りで、どこに向かっているのかわからないままひたすらに歩いた。
ひたすら押し寄せるように後悔が続く・・・
§
昔から恋愛経験は少ないわけではなかった。
むしろ人並み以上はに経験は多いかもしれない。
人付き合いも得意な方だと思う。
気の知れた仲間がいて、時には通い慣れたコンビニ、あるいは学校近くのお弁当屋さんでも買い物ついでに愛想良く話し込むこともあったり。
ああ、失恋したことも何度も経験している。
どうにも真剣に向き合ったりすることが苦手なようで、それが相手にとっては耐えられないようだ。
最後には決まって、
「何を考えているか分からない」だの
「あなたの好きという言葉は信じられない」とか
「本当に好きだったのは私だけで、海君は私を見てくれない」
なんて言われてきた。
ジェットコースターのように盛り上がって、あっという間に離れていく。勝手だなと思うこともあったし、思わなかったり。
去る者は追わず来る者は拒まず、気ままに生きてきた。
いずれにしても、恋愛によって大きく感情に揺さぶられることはなかった。
だから今回の失恋だって、数ある別れ話の一つだと思った。
そんな自分がこの様だ。恰好が悪いにも程がある。
少しひんやりとした空気で、冷たい風が余計に自分を惨めに感じさせる。季節は秋分の日も過ぎた頃で、別れ話を告げられた時には明るかった街の景観が、あっという間に暮れて今は薄暗い。
まるで世界も心も闇の中にあり、今なら失恋を題材にしたテーマで卒業論文を書くことすらできるかもしれない。
余裕が無いくせにそんなことを考えている自分が気持ち悪い。
なんて、自分のよくわからない思考に落胆しながら歩いていると、気付けば帰りの電車の中にいた。
どうやって乗り込んだかも曖昧な電車の後ろの方、それも端っこに身を置き、身を縮めてただ目的地を待った。
これからはもう電車に乗ることも少なくなるかな。またどうでもいいことを思う。
自分が電車を利用するのは専ら恋人とのデートの時だけ。
皮肉にも元彼女への逢瀬の為、普段乗らない電車にも随分と慣れたことで、乗り換えや時間計算は問題ない。
僕は停車駅を思い浮かべながら、まだ大丈夫。そう判断して目を閉じた。
やがて押し寄せてくる睡魔に身を任せる。
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