僕は自分を見付ける―他人の人生に成り代わった僕。新たな人生を歩む。

メリーさん。

第1話 失恋と後悔と

僕、皆川海みながわかいは絶賛失恋中だ。

小一時間ほど前になるが、自身最愛の彼女だった人物にこっぴどく振られた。


思わずムッとしたことで、自身が解き放ったセリフがとどめを刺した。


―――それにより、あっけなく関係は崩壊した



「あんなこと、言わなければ良かった・・・」


茫然自失となり、その後のことは酷く曖昧だ。

覚束ない足取りで、どこに向かっているのかわからないまま歩く。

まるでこの世界で最も不幸だと言わんばかりに大きくため息を吐いた。


ただひたすら押し寄せるように後悔が続く……


§


昔から恋愛経験は少ないわけではなかった。むしろ人並み以上に経験は多いかもしれない。


それに人付き合いも得意な方だと思う。気の知れた仲間がいて、時には通い慣れたコンビニ、あるいは学校近くのお弁当屋さんでも買い物ついでに愛想良く話し込むこともあったり。


ああ、失恋したことも何度も経験している。

どうにも真剣に向き合ったりすることが苦手なようで、それが相手にとっては耐えられないようだ。


最後には決まって、

「何を考えているか分からない」だの

「あんたの好きという言葉は信じられない」とか

「本当に好きだったのは私だけで、海君は私を見てくれない」

なんて言われてきた。


ジェットコースターのように盛り上がって、あっという間に離れていく。勝手だなと思うこともあったし、思わなかったり気ままに生きてきた。

いずれにしても感情に揺さぶられることはなかった。


だから今回の失恋だって、数ある別れ話の一つだと思った。

そんな自分がこの様だ。恰好悪いにも程がある。


季節は秋分の日も過ぎた頃で、別れ話を告げられた時には明るかった街の景観が、あっという間に日が暮れて今は暗闇の中だ。

少しひんやりとした空気で、冷たい風が余計に自分を惨めに感じさせる。

まるで世界も心も闇の中にあり、今なら失恋を題材にしたテーマで卒業論文を書くことすらできるかもしれない。


余裕が無いくせにそんなことを考えている自分が気持ち悪い。自分のよくわからない思考に落胆しながら歩いていると、気付けば帰りの電車の中にいた。


どうやって乗り込んだかも曖昧な電車の後ろの方、それも端っこに身を置き、身を縮めてただ目的地を待った。


これからはもう電車に乗ることも少なくなるかな。またどうでもいいことを思う。

自分が電車を利用するのは専ら恋人とのデートの時だけ。

皮肉にも彼女への逢瀬の為、普段乗らない電車にも随分と慣れたことで、乗り換えや時間計算は問題ない。


僕は停車駅を思い浮かべながら、まだ大丈夫。そう判断して目を閉じた。


やがて押し寄せてくる睡魔に身を任せる。

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