第6話 帰宅部は部活である

「今日は部活動紹介、明日は体力テスト。僕にとっては最悪の布陣だな」

「一気に終わらせられると思えばいいんじゃねえの?それにあれを忘れてるぜ?」


アレ?そんな特筆するようなことは今週は無かったと思うが。何か行事でもあっただろうか。


「テストだよ!テースート!!」

「なんだ、そんなことか。たしか明後日、金曜日だったよな?」

「そんなこと?そんなことじゃねえよ!テストだぞ!?」

「たかが入学テストに何を警戒する必要がある」


ここは髪色や何やらの校則は緩いが、それでも進学校だ。つまり、学業には容赦の二文字が無いと聞いたことがある。

とは言っても、五十嵐が言っているのは新入生の実力を測る定期試験ですらないテストのことだ。出る範囲だって中学でやった内容くらいのものだろうし、出るとしても初歩的な所だけだ。普通に勉強していれば心配することはない、と甲斐先生が言っていた。


「入試後すぐのテストだぞ?もう内容なんか忘れたに決まってるだろうが!」


そういえば、五十嵐はかなり勉強してこの学校に入ったと言っていた気がする。それなら解けなくても意外ではないが、さすがに点が低すぎるのも問題だろう。


「別に威張るようなことじゃないだろ。それに今から勉強すれば平均くらいは取れるんじゃないか?」

「ぐぬぬ、やるしかない.....のか」


などと苦渋の決断を迫られた騎士のようなことを言い項垂れる五十嵐。このまま静かにしてくれれば—


「まあいい!こんなテンションが下がる話題はやめて今の注目トピックについて話そうじゃねーか!」


こんな期待をするのが馬鹿だった。コイツが一分でも沈黙を貫いたことがあっただろうか?いや、無い。(反語)


「今一番みんなが気にしてるのはズバリ《氷の聖女》がどの部活に入るのか、だろうな」


もぐもぐ、今日も弁当は美味いな。


「もうちょっと興味を持てよ!」

「知らないよ。とゆうかそもそも何だ?《氷の聖女》とかいうのは」


こんな厨二病みたいな名前の奴が新入生の中にいたとは知らなかった。是非ともお会いしてみたい所ではあるが、やはり面倒なのでやめておこう。


「おいおい、知らないのか?アンタの隣の席じゃないか」

「まさか.....白無のことか?」

「ザッツライト!その通りだ」


チラリと横を見て答える。今は昼休みなので白無はそこにはいない。だからこそコイツも話題に出したんだろう。その判断はナイスだと褒めざるを得ない。


「あの冷たい瞳、美しい所作!それらを表して付けられたのがこの渾名あだなだ」


ほとんど外見じゃないか?というツッコミは無粋だろうか。


「聖女、っていうのは誰にでも分け隔てなく優しいようなイメージだが」

「さあ?なんでこんな渾名なのかは知らん」

「誰が命名したんだ?」


まあ渾名なんて気付いたら浸透しているようなものだからな。ソイツの本意でないものになるなどザラにある。それでイジメに発展することもあるくらいだ。


「無論、俺だ」


キメ顔を作る五十嵐に僕は冷めた目線を送る。

君が名付けたのかよ。ならなんで由来が分からないんだ。


「由来くらい考えておけよ」

「Don't《ドント》 think《シンク》 feel《フィール》、だぜ雪哉。感じたことをありのままに」

「それは映画のセリフなんだがな」


それに武術とかで使う言葉だろう、それは。名付けでそれを起用する奴はそういないと思う。

君が使うとただの思考放棄だ。

まあ、それを口に出して言うことはしないがな。


弁当を鞄に仕舞い、僕は席を立つ。

午後は部活動紹介だ。体育館に行けと言っていた。


「ちょっ、待とうって気がないのか!?」

「ない。君が速く食べないのが悪いだろう」


五十嵐はブーブーと文句を言いながらパンを口に放り込む。そういえば、五十嵐は人一倍部活動紹介を楽しみにしていたな。


「まあ席くらいは取っておいてやる」

「まひが!あひかほな!」

「口に物を入れて喋るな。愚者が」







♦︎♢







「私達、サッカー部は——」


入学式同様、マイクから元気な声が響き渡る。

場所は体育館、壇上で部長らしき生徒が熱心にサッカーの魅力を語っていた。

僕はサッカーやらバスケやらには一切興味がないし、入る気もないので右から左に聞き流しているが、隣のコイツは違う。


「サッカー部、いいねぇ。高校って感じだ」


サッカー部は高校じゃなくてもあるだろうと思うが、大変楽しそうにしているので放って置くことにした。

うちの学校は勉学重視といえど、部活にも力を入れている。私立なのでスポーツ推薦の人間もいるだろうし、運動部はかなり本気でやっていると聞いた。

五十嵐から。


本人が何部に入るのかは聞き逃したが、今の所面白そうな部活はない。

今回も無所属、いや帰宅部に入部になるか。無所属ではなく、帰宅部だ。そこを間違えると背中を刺されるから気を付けろ。僕達は帰宅部であることに誇りを持っている——。


なんてこともないが、やはり面白そうな部活はない。


奇術部やボードゲーム部といった個性的な部活は多々あれど、僕の興味を唆るものは何一つとしてなかった。入るとしても文芸部くらいだろうが、この学校は部活強制ではないので入るつもりはない。


その分読書とゲームやらの時間が増えるからな。やぶさかではないとだけ言っておこう。


その後もバスケットボール部、棋道部、アーチェリー部、オカルト研究部と続き、最後に紹介されたのは生徒会だった。


生徒会は完全なる推薦制で、現役員が生徒の中から自分の後釜ないし役員を選出するらしい。

つまり、生徒会に入りたければ縦のつながりが有った方が楽ということだ。兼部も認められているそうで、選択の幅は広い。


何の学びもなく紹介は終わり、僕達は教室へと戻る。ぞろぞろと生徒が同じ方向に向かっていく様はまるで蟻の大群のようである。


そういえば、白無は何の部活に入るのだろうか。


「!?」


あー駄目だ。始まりかけた思考を停止し、頭を押さえる。

今、何を考えようとした?決めただろ、自分から他人に干渉するのは禁止だと。相手からならまだしも、自ら深入りしようとするのは駄目だ。危ない危ない。

それが僕のポリシーだっただろうに、なぜ気になったんだ?


「おーい、雪哉!行くぞー!」


.......まあいい。どうせ昨日の看病が尾を引いているのだろう。

そこまで気にすることでもないか。









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まさか一話まるまるヒロインが出てこないとは....

次話では出します。多分、恐らく、probablyです。


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