第3話 入学試験


side白無真白


「私が入試一位じゃないんですか?」


一週間前に行われた入学式。

私はそこで新入生代表の挨拶をしました。この学校は一応新学校なので、代表挨拶は毎年入試で好成績を収めた生徒が行うことになっているとか。


しかし、先生が言うには私は入試成績二位だったらしいです。


「そうみたいだぞ?」

「.....なぜその人が挨拶をしなかったのですか?学校に来れなかったとか?」

「いや、あの入学式には出てたし健康面でも問題はない。なんで辞退したのかは分からん」


自分が一位だと思っていたわけではなくとも、誰が一位なのかは少し気になります。

その人が挨拶をしていれば、わざわざ私が文章を考える必要が無かったものを.....。

少し恨めしいですね、元から人前に出るのは得意ではないので。


「不服、って顔だな。まあ誰が一位だったかは教えられないが、少なくともお前が知っている生徒かもしれないぞ?」

「それはもう教えているのでは?」

「いいや、具体的な人物名は言ってない。少し口を滑らせただけだ」


良い大人が屁理屈をこねるというのもどうかとは思いますが、聞いてしまったので文句は言えません。


「まあいい。今回呼び出したのは明後日の委員会決めの話だ。お前、中等部の時と同じように委員長やるか?」

「やっても良いですけど、他にやりたい人がいなければ」

「委員長なんてハズレ係やりたい奴なんているかよ。とは言ってももう一人必要になるから、今度のホームルームで決めるか。その日俺出張だから、取り仕切りはお前に任せる。大丈夫か?」

「はい、大丈夫です」

「オーケー、ならもういいぞ。要件はそれだけだ」

「分かりました。失礼します」


そう言って私は職員室を出ました。

あれは.......千堂くん?

入れ替わりに彼は職員室へと入って行き、一瞬しか見えませんでしたが恐らく千堂くんでしょう。


何か問題でも起こしたのでしょうか?

少し気になりますが、お昼ご飯を食べなければなりません。今日はあまり食欲が無いのですが.....。


それに、盗み聞きなんて出来ませんし。







♦︎♢







職員室に入る時出てきたのって白無か?

あれくらいの優等生となると職員室でも堂々としてるもんだな。


「おう、来たか」


入るなり僕に声をかけたのは、うちのクラスの担任 甲斐かい先生である。

ズボラな雰囲気だが、授業はちゃんとやるという中々に良い教師だ。普段の態度は知らないが。


「委員長を事前に決めるなんて事あるんですね」

「ん?ああ、聞いてたのか。俺が出張だからな、まとめ役がいるんだよ。高校生なんて一番はっちゃける時期だろ」


それは偏見なのか、それとも経験談なのか。

どちらでもいいが、その意見には僕も賛成だ。あまりにうるさいのは好きじゃない。


「それで、なぜ僕が呼ばれたんですか?」

「入試だよ、入試」

「.......何のことですか?入試で何か問題でも?」


カンニングもしてないし合格通知もちゃんと届いた。何か手違いでもあったのか?


「まだしらばっくれんのか?あんな点数叩き出しておいてそれはないだろ。ほれ」


そう言って甲斐は僕に数枚の紙を手渡した。そこに書いてあったのは入試成績だ。間違いなく僕の。


「これが何か?」

「国語99点、数学99点、英語99点、社会99点、理科99点。これを異常と呼ばずしてなんて呼ぶんだよ」

「ただ一問間違えただけの解答用紙ですね」

「なわけあるか。応用問題は全部解けてて最初の問題だけ間違えてるわけねえだろ」

「ケアレスミスでは?」

「それが全教科であるのかよ?」

「....あるかもしれませんよ」


僕の調子が良くなかったのかもしれない。


「ふーん、しらをきるわけか。なら追求はしねえけど.....なんでやった?それだけ聞きたいんだが」


なんで、なんでか。僕はあの時何を考えていたんだろうな?


「ゲームですよ。ギリギリを攻めるゲーム。あと成績のためです」


まあ多分そんな理由だったと思う。

たまには僕だって遊びたくなる時があるのだ。


「ゲームねえ....そうか、分かった。用はそれだけだ。お前が問題児だったら俺の責任になるからな。戻っていいぞ、時間取っちまって悪かった」


ちゃんと謝ってくれるあたり根は良い人なんだろう。それだけで判断するのも愚かだとは思うが、あくまで第一印象だ。


「失礼します」


そう言って職員室を出る。

廊下の窓をふと見れば、校庭には雨が降り注いでいた。









「よお雪哉。怒られてきたか?」

「逆に聞くが僕が怒られるような事をすると思うか?」

「いいやまったく。なんで職員室なんかに呼ばれたんだよ?」


コイツ....分かってて聞くとは非効率な男だ。それにこの一週間はずっと僕に引っ付いていただろうが。知らんとは言わせないぞ。


「大した事じゃない。入試の点数についてだ」

「そんなに悪かったのかよ?意外だな」

「ノーコメントで」


まあ嘘はついていない。入試の話をしたのは本当だし、点数については五十嵐の勝手な想像に過ぎないのだから。


その後も授業は筒がなく進み、ついに放課後がやって来た。

部活は明日新入生に対するオリエンテーションがあるので、今日までは放課後も全員帰宅の一途を辿ることになる。


しかし外は昼と変わらず雨が降っていた。誰もが傘をさして歩くのが面倒だという話をしている間、僕は五十嵐に絡まれていた。


「......ん?」

「それでよ、どうだ?俺の彼女に会いに来ねえ?」

「断る。今日は雨だし気分も乗らない」


というか興味がない。目の前でカップルのイチャつきを見せられるなんて新手の拷問か?

そんなやり取りを交わし、僕は帰宅した。


歩いている間にも雨足は強さを増していく。サアサアと降っていた雨も、今はザアザアという効果音を伴って落ちて来ているほどだ。

これはいよいよ不味いだろうな。傘を持っていない奴にはご愁傷様としか言いようがないが。


雨宿りをする他の生徒を尻目に、僕はマンションへと辿り着く。


濡れた服に不快感を催しながら玄関を開けようとした時、僕はその存在に気付いた。


隣の家の前で倒れている何か。


よく見れば、それは途轍もない美少女。言わずも知れた、白無 真白である。

寝ているのではない。顔に赤みがかかっているし、おでこに手を当ててみれば熱だとすぐに分かる。


「どうしろっていうんだ?これ」

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