勇者のための世界
ブル長
1、勇者
オレは待っていた。その瞬間をじりじりと待っていた。そして、そのときは来た。
「それではみなさん、節度を守って、楽しい夏休みを!」
その先生の一言で、一学期最後のホームルームが終わった。夏休みになったんだ! その瞬間、圧倒的な解放感がオレに押し寄せてきた。自由を肌で感じながら、オレは席を立つ。
クラスの連中はこれからの予定のことで盛り上がってる。そんな教室をオレは一人、さっそうと抜け出す。オレにはオレの予定があるんだ! さあ、これからどうする? いったい何をするんだ? 四十日もある! 完全にフリーな日が四十日も!
いつもの通学路。まわりに制服を着たヤツは見当たらない。どうやらオレが最速の帰宅をキメたみたいだ。
さぁ、どうする? 高校一年の夏休み。そう、高校一年の夏休みなんだ。何かメモリアルなことがしたい! ずっと後になって振り返ったとき、このひと夏を閉じ込めた宝石のように光り輝いてる、そんな何かを!
オレはずんずん家へと歩く。一人でも寂しくなんかない。オレはソロプレイヤーだから! 男一匹、水守灯也(みずもりとうや)! オレはソロプレイを極めるんだ!!
「ソロプレイを極めるって?」
「えっ?」
いつのまにか、オレの目の前にオッサンが立ってた。知らないオッサンだ。虚ろな目でオレのことを見てる。てゆうかオレ、声に出してたっけ?
「な、なんだよオッサン。オレになんか用?」
オッサンの口もとに媚びるような愛想笑いが浮かぶ。
「人間、ソロプレイを極めると何になるか知ってるかい?」
ぎらぎらと照りつける太陽でアスファルトがゆだってる。そんな中でオッサンの笑顔が歪んで見えた。
「な、何になるんですか……?」
「クリエイターになるのさ」
次の瞬間、太陽の光が風景を白くとばした。視界が戻ったとき、そこにはもうオッサンの姿はなかった。
「あれ?」
なんだったんだろう? まぼろしでも見てたのかな?
「ソロプレイを極めたら、クリエイターになる?」
でもなんだろ、この言葉にヒントがある気がする。オレの夏休みを最高なものにするためのヒントが……。
「そうか! そういうことか!」
作品だ! 作品をつくるんだよ! そして、それが『ひと夏を閉じ込めた宝石』になるんだ! オレの『高校一年の夏休みのすべて』になるんだ! よし、いいぞ! それでいこう!
じゃあ、何を作ろうかな? そうだな……ゲーム! ゲームなんてどうだろ? それもRPG! オレの独創的でサイケデリックな世界観がさく裂する、ものすごいヤツ。プレイヤーはどんどんオレの世界に引き込まれて、クリアするころにはオレのことを神だと思ってるだろうな。それでいいんだ!
はっきり言ってリアルは退屈だ。毎日、同じようなことばかりやらされるし、ぜんぜん成長できてる気がしない。このリアルをゲームに例えるとクソゲーだ。オレたちは神様とかいうクソゲーメーカーに踊らされてるんだ。でも、たった今からオレは一抜けさせてもらう! オレはクリエイターだ! オレはオレの世界を創るんだ! そしてオレの世界はリアルを超えるんだ!
「よぉし、やるぞぉ!」
コンビニに寄ってエナドリを三本買った。これだけで六百円もする。ヤバイ! でもこいつらは頼りになる。これでブーストをかけて駆け抜けてやるんだ! このメモリアルな高校一年の夏休みを!
家に帰りつくと、リビングに母さんがいてテレビを見てた。帰ってきたオレをちらっと見る。
「灯也、アンタ夏休みどうすんの?」
「母さん、知ってるか? ソロプレイを極めたヤツはクリエイターになるんだ!!」
「あ~ハイハイ、そっちね」
そっちって何だよ!? インドアって言いたいのか!? でもオレは空想のつばさを広げて、ワールドワイドにアウトドア決めてやるんだ!!
オレはシャワーをがっつり浴びて、自室のパソコンの前に座った。そして適当なゲーム制作ツールをダウンロードしてインストール。もしオレが有名になったら言われるんだろうなぁ、すべてはここから始まった、ってね!
ツールを起動させた。ウィンドウの中は真っ暗だ。
「さて、と」
ゲームの世界に思いを馳せる。オレは見切り発車なんてしないんだ。
まず世界観はどうする? そうだなぁ、『ダークファンタジー』にしようかな? 血しぶきが飛び散り、生首がポンポン飛ぶようなヤツ。やっぱり、イマドキはそのくらいやらないとプレイヤーの心に爪痕を遺すなんてできないからな。まったくシビアな時代だよ!
次にストーリーはどうしよう? う~ん、あえてベタでいいか。勇者が魔王を倒しに行く。世界を滅ぼそうとする魔王に立ち向かう勇者。ストーリーラインはそういうベタな感じでいい。でもオレは独創的なクリエイター。そういうベタなストーリーラインに独自の味付けをしてオリジナリティを出す、そういうところに楽しみを見出していくんだ!
そうだなぁ、オレとしてはこのRPGをバトルマニアな戦闘狂の皆さんに楽しんでもらえるようなやつにしたいかな。ごりごり重武装の戦士とか、ジジイな大魔導士とか、筋肉がふくれあがってパンパンな僧侶とか、そんな連中が勇者の仲間になるんだ。そして魔王軍と血で血を洗うバトルをする。いろんな背景を持ったヤツらがおのれのプライドをかけて潰し合う。人間も魔族も容赦なく死んでいく。血の川が流れ、しかばねの山が築かれる。もちろん一度死んだヤツがよみがえることなんてない。一度死んだら、そいつはもう死んだんだ。それでこそ『死』ってモンをプレイヤーがリアルに感じ取れるってわけだ。誰もがもがき苦しみながら、命とはなんなのか、正義とはなんなのか、そういう問いと向き合う。とにかく濃くてダークな世界なんだ!
よしよし、いいぞ! なんか楽しくなってきたぁ! それじゃ、まずはマップから作っていこう!
真っ暗な中に海のチップを敷き詰めていく。これで海ができた。そしてその真ん中あたりに陸地のチップを置く。これで島。さらにその真ん中に神殿のチップを置いてみた。
そう、ここは神殿だ。いにしえの古代神ケイオス様を祀ってる神殿なんだ! そして神殿といえば、神様を守護する最強モンスター『守護獣』だ。オレはネットでフリー素材のモンスターグラフィックを漁った。そしていい感じのヤツを見つけた。黒い雄牛の頭とゴリマッチョな漆黒のからだを持つ、最高にかっこいいヤツ。手には処刑刀みたいな巨大な剣を握ってるのもいい。こいつに決めた! 名前は……そう、タルタロスにしよう。『奈落』って意味だ。いいだろ?
オレはタルタロスに最高のステータスをくれてやった。ぜんぶのパラメーターで『9』を敷き詰められるだけ敷き詰めていく。
「HP 99999999」
なんとも夢のある数字だよな。もちろん全状態異常が無効になるおまけつきだぞ!
でもどうかな? これって明らかに序盤のダンジョンにいるヤツのステータスじゃないよな。そうだな、この神殿は隠しダンジョンってことにしよう。ラストダンジョンが魔王城だとして、そこの隠し部屋からワープできるんだ。ラスボスを倒した後に、最強の隠しボス・タルタロスと戦える。そんなの最高だろ? このゲームのバトルシステムを極めた連中が興奮して飛びつくだろうな。
「ふう」
時計を見ると、午後十一時過ぎ。帰ってからずっとゲーム作ってたんだな。さっそくエナドリでブーストかけようか? いや、やめとこう。昔、偉い人が言ってたよ、クリエイターにも規則正しい生活が必要なんだってね。それに夏休みはまだ始まったばかりなんだ。とゆうわけで、今日はもう寝よう……。
◆
目を開くと、オレは白亜の神殿の中にいた。
「……え?」
祭壇の一番上の玉座、そこに深々と腰かけてた。
立ち上がって、あたりを見回す。それから自分の格好を見た。えらくゆったりした、肌触りのいい白い服。なんだよこれ? どうしてオレはこんなところに?
「ど、どうなってんだよ?」
きっとオレは夢を見てる。夢の中で自分の作ってるゲームの中に入り込んだんだ。人間、集中力が極限まで高まると、夢の中でも考え事を続けるらしいからな。そう、こんなことは別に珍しくないんだ。
神殿の空気はひんやりしてる。涼しくて居心地がいい。祭壇を降りて、歩き回ってみる。白い大理石の床は歩くたびコツコツと気持ちのいい音を立てて、それが高い天井に反響する。う~ん、オレはマップの上に神殿を置いただけなのに、それがこんな立派な神殿になってるとか。なんてゆうか……すごく気分が上がるぞ!
神殿の外に出てみた。神殿の前には階段があって、その下には石畳の広場がある。そしてそこにはヤツがいた。黒い雄牛の頭を持つゴリマッチョ、その漆黒の肌には赤い光脈のような血管が縦横に走ってる。オレに目に狂いはなかった!! お前は最高のモンスターだ!!
守護獣タルタロス。近くで見るとすごい迫力だな。身長は三メートル近く。腰には処刑刀のような大剣を吊り下げて、まさに威風堂々って感じなんだ。
「よっ! タルタロス!!」
思い切って声をかけてみた。その声に反応してタルタロスが振り返る。そして……オレの前にひざまずいた。おお~、なんだろ、この胸の高鳴り! 最高に気分が上がるぞ!
「ま、頑張れよっ!」
ポンポンとタルタロスの肩を叩いて、そのまま神殿の敷地の外へ出てみる。あたりにはフィールドマップ、いや、草原が広がってる。風も吹いてる。その風にはかすかに潮の香りも混ざってる。海まで近いな。そりゃそうか。オレがそういうふうに創ったんだからな!
やや歩いた後で砂浜が、そして見渡す限りの水平線があらわれた。空は蒼いし、海も碧い。ほんとにいい感じだ!
「ふう~」
気持ちのいい海風に吹かれながら、オレは両手を思い切り広げた。オレが創ったんだ!! この世界はオレが創ったんだ!! そう叫びだしたい、そんな気分なんだ。
きびすを返して神殿へと歩く。踏みつけられた草原の草がシャリシャリと音を立てる。考えたんだけど、この島にはまだまだ改善の余地がある。いちおう隠しダンジョンって扱いだけど、もう少し神殿廻りを充実させてみてもいいかもしれない。じゃ、何を作ろうか? それを考えよう! これからの予定を考えるのって、ほんと楽しい時間だよな!
神殿前の広場の真ん中、そこには相変わらずタルタロスがいた。オレを見て、ひざまずく。
「おっ、ごくろぉ! 知らねえヤツが来たらぶっ殺していいからなッ!!」
肩ポンポン。
そのまま神殿へと入って、再びオレは玉座に上がる。
「ふいい~~」
ヤバいほど清涼な空気に満たされた神殿の中で深呼吸。
なるほどなぁ。こういう感じかぁ。オレはこれからこの世界を創っていくんだな。マッチョな連中がおのれのプライドをかけて、血で血を洗う、血まみれ血ヘドまみれのダークファンタジーを繰り広げる世界。血の川が流れ、しかばねの山が築かれる世界。勇者はそんな世界を旅するんだ。そして旅の終わりに、いったい何を見るんだろうな? よぉし、楽しくなりそうだぞ……。
どがあああああああああああああああん!!!!
「な、なんだあああ!?」
神殿全体が震えた。まるで地震みたいに。とにかく神殿の外に出てみる。そして神殿前の石畳の広場、そこには……。
そこにはタルタロスがいた。そしてもう一人。オレの知らないヤツも。そいつがタルタロスと戦ってた。タルタロスが振り下ろす巨大な処刑刀。もう一人の……青い服のヤツがそれを避けると、石畳に亀裂が入る。
タルタロスが横に薙ぐ。そいつは身を伏せて避ける。そして両手持ちにした剣でタルタロスの腹に突き! でもその切っ先はタルタロスの腹筋を貫けない。そりゃそうだ。タルタロスはこのオレが世界最強・絶対無敵の存在として創造したんだからな。
青い服の剣士が大きく間合いをとった。そして剣を上に掲げる。大技を使おうとしてる、そんな雰囲気。
「光の女神さまっ!! ボクに力を貸してっ!!」
剣士の――声からして女の子みたいだ――声に応えるように、剣が光を孕んで輝いた。
「やぁああああああああああッッ!!!!」
一瞬、光が止んで、次の瞬間、ものすごい光の衝撃波がさく裂した。ちょうどタルタロスの立っている場所で花火何発分かも分からない光の大爆発ががが!?
……タ、タルタロスゥゥゥゥゥッッッ!!?? オ、オレのタルタロスが!? なんてこった、オレのタルタロス、オレの最高傑作が……!?
でも、それは杞憂だった。光がおさまったとき、タルタロスはまだそこに立っていた。まったくの無傷で。オレの視界がぼやけた。ごめんなタルタロス。信じてあげられなくて。オレはお前を最強無敵に創ったってのに、そのオレがお前のこと信じてあげられないなんて、そんなの悲しいよな。オレ、生みの親失格だよな……。
剣士の方は、おそらく一瞬ひるんだ。でも、すぐに気持ちを立て直したみたいだ。剣を構えなおして、じっとタルタロスとの間合いを計ってる。すごい! こいつは相当な修羅場くぐってきてるぞ!? でも切り札っぽい技が通用しなかったんだ。こっからはじり貧だろうな。
そして実際、剣士は徐々にタルタロスに押されていく。タルタロスの処刑刀を避けるのが精いっぱいになる。そして、タルタロスの振り下ろした処刑刀、それを剣で受け止めたとき……。
「あぐうっ!!」
タルタロスの左の拳が剣士のお腹を捉えた。
「がああっ、うええっ……」
ガクッと両ひざをつく剣士。ヤバイ。めっちゃ痛そうだ。大丈夫か? つーか、RPGではダメージが数値化されて、それをやり取りするんじゃないのかよ? オレがいま見てるもの、これって何なんだ? もしかして……命のやり取り?
「う、ぐ……」
お腹を押さえて前かがみになってる剣士。そこへ……。
「うああっ!!」
タルタロスの容赦ない蹴りが入る。まるで道端に転がってる石を蹴り飛ばすみたいな無造作感。剣士が吹っ飛んでいく。
「あうっ……!」
そのまま石畳に叩きつけられた。でもすぐ立ち上がって体勢を整える。まっすぐにタルタロスを見た。苦痛に歪んでて、でもまだ何も諦めてない、そんな表情だ。そこへタルタロスが全速で突っ込んだ! そして渾身の蹴りを……。
「うああああああああああっっ!!!!」
悲鳴を上げて、さっきの倍は吹き飛ぶ剣士。そこから二回、石畳にバウンドして、仰向けに倒れた。そしてもう一度起き上がろうとしたけど、それは叶わなかった。くたっとからだの線がゆるんで、そのまま動かなくなる。
すごいぞ! さすがタルタロス! めちゃくちゃ強い! これで決着だな! でも、なんかちょっと雰囲気がヘンだ。まだ終わってない、そんな感じがする。タルタロスがなぜか倒れた剣士の方へと歩いていく。不吉な予感しかしない足運び。どうゆうことだよ? おい待てよタルタロス、お前、どうするつもりなんだ? も、もしかして……? と、と、止めないと……!!
「や、やめろおおおおお!! 殺すなあああああああああ!!」
「ふう、危なかった……」
いや、本当に危なかった。なんでだよ? オレが『ぶっ殺していい』って言ったから? タルタロスには冗談が通じないんだ。これは貴重な教訓だな。きっと、このノリがダークファンタジーなんだ。
そしてオレは生まれて初めて、女の子をお姫様だっこした。腕がぷるぷるするけど、なんとか歩き続ける。そして神殿の一室に運び込んで、ベッドに寝かせた。
「ん……」
剣士は気を失ったまま。足音に振り返ると、タルタロスがいた。剣士の使ってた剣をオレに差し出す。心なしか動作がしおらしくなってる。さっき叱りつけたから? 最強守護獣のタルタロスちゃん、なんかかわいいぞ!
再び持ち場に帰っていくタルタロス。オレは剣を鞘に納めて剣士の近くに置いた。そしてベッド脇の椅子に座って考えてみる。
この剣士はいったい誰なんだよ? いったいどこから来たんだ? オレは確実にこういうキャラを創った覚えはないんだ。
ショートカットにした髪の毛は今日の空のような色だ。ボーイッシュな顔立ちをしてる。年のころはたぶん、オレと同じくらいか少し上。それにしても装備してるのがちょっと……いや、かなりヤバい! 全身にぴっちり張り付いてるスーツに、その上から防御力のなさそうなことに定評があるビキニ鎧を着けてる。胸のところは窮屈そうにパツパツになってるし、股のところはすごく食い込んでて、はっきり言って目のやり場に困る。なんだよ、このエロ装備は。こいつは明らかにオレの作ったキャラじゃない。オレがこんなデザインにオッケー出すわけないんだ!
「うう、ん……」
剣士がうっすらと目を開けた。
「あれ、ボク……?」
自分がベッドに寝かされてることに気付いたみたいだ。さっき見た海、それと同じ色の瞳がオレを見た。柔らかな微笑みがその口もとに浮かぶ。
「キミが、助けてくれたの?」
「た、助けたってゆうか……」
ウチのタルタロスちゃんがご迷惑をおかけしました、そうとしか言いようがない。
「ありがとう……」
碧い海の色の瞳がとにかく優しい。まるで言葉だけじゃなく、視線でも感謝の気持ちを伝えようとしてるみたいなんだ。なんてゆうか……あざとさを感じるぞ! でも、あざとすぎて逆にナチュラルな感じもするし、なんか不思議な感じだ。
「よっ、と」
剣士はベッドの上で上半身を起こした。
「お、おい。もう大丈夫なのかよ?」
「うん、もう大丈夫!!」
ベッドの上に座りなおして、オレを真正面から見た。そしてニッコリ。
「ボク、ミオ! 勇者っ! よろしくねっ!!」
……えっ、勇者?
「キミは?」
「オ、オレ? オレは、灯也」
「トーヤ!」
「そ、そう。この神殿の、まあ、管理人?かな」
管理人。まあそんなとこだろ、たぶん。
「この神殿の……?」
自称勇者は不思議そうな顔をした。
「じゃ、じゃあ知ってるかな? あの、階段下の広場にいたモンスターのこと……」
モ、モンスター……。
「いや、待ってくれ。アイツはモンスターじゃないんだ」
まあ、モンスター枠ではあるけど。
「この神殿の守護獣なんだよ。とりあえず見知らぬヤツが入ってくると襲い掛かる係なんだ」
「あ、そっか。そうだったんだ……」
「とりあえず、もう大丈夫なら会いに行ってみるか? ええと、ミオさんの……」
「ミオでいいよ! トーヤ!!」
「じゃあミオの、顔を覚えさせたいからさ……」
オレたちは連れ立って神殿前の広場に行く。そこにはやっぱりタルタロスがいた。オレたちの気配に気づいて振り返る。そしてひざまずいた。
「よう、タルタロス! こっちはミオ! ちゃんと顔を覚えとけよ! もう襲いかかるんじゃないぞ!」
タルタロスは頭を下げた。分かってもらえたみたいだ。
「基本、すごいイイヤツなんだ」
「わあ! トーヤってすごいんだね! こんなに強い守護獣を従えてるんだもん!」
「まあな。オレはコイツが『生まれたときから』知ってるんだ。こいつのオムツもオレが替えたし、そのときの力関係が生きてるんだよな」
ま、だいたいそんなところかな。オムツ替えたこととか無いけど。
「へえ~」
ミオは感心したような声を上げて、タルタロスに近づく。
「さっきはごめんね、タルタロスちゃんっ! ボクはミオ! よろしくねっ!!」
こだわりなくタルタロスの鼻を撫でるミオ。タルタロスはされるがままになってる。ようし、これで万事解決だな!!
「でもトーヤ。この子、ほんとうに強いね。ボク、魔王だって倒したのに、この子にはぜんぜん歯が立たなかったもん」
「えっ?」
いや、ちょっと待て? ミオは今、なんて言ったんだ?
「いや、ちょっと待ってくれ。いま、なんて言ったんだ? 魔王を、どうした、って?」
「え? うん。魔王を、倒した、って」
……え? どうゆうこと? 魔王を、倒した?
「ん? どーしたの、トーヤ?」
「い、いや」
とりあえず適当に話を合わせておこう……。
「そういえば風のうわさで聞いたかもしれない。勇者が魔王を倒した、って」
「そう! それがボク! だよ!!」
「な、なるほどな……」
もしかして、いちばん最初に隠しダンジョン作ったせいで、魔王討伐まで全部スキップされたとか? え、そんなこと、ある?
「魔王を倒した後にね、魔王城を探索してたらさ、隠し部屋を見つけて。それで気が付いたらこの神殿の前に立ってたんだ」
「あ~、なるほどな」
そういえばそうだった。魔王城の隠し部屋、そこにこの神殿にワープするイベントを作るつもりだったんだ。だとしたらつまり……うん、どうゆうことだよ? もしかして、ここがスタート地点になったとか? この小さな島の、この神殿が?
「あの、ねえ、トーヤ。ボク、お願いがあるんだけど」
「……え? な、なんだよ?」
「あのね、ボク、今日泊まるところがないんだ。だからね、この神殿に泊めてくれないかな?」
女一人を? 男一匹モンスター一匹、計二匹の神殿に?
「あっ、ダメ、かな?」
「い、いや、別にダメじゃないけど……。もしミオがいいなら」
「わあ! ありがとう、トーヤっ!!」
手をパチンと打ち鳴らすミオ。いや、いったいどうしたんだよ? いったい何が起こったんだよ? 出発地点、完全に間違えてないか? いったいこれから、どうなるんだよ?
ふと見上げると、そこにはいつまでもぼーっと見ていたくなるような青空が広がってた。
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