第10話 あの頃

気が付いたら私は丘の上にある母校の校門の前にいた。

完全下校時間が過ぎていたため、門扉は閉ざされ人影もない。

「懐かしいな・・・」

私は青い塗装のされた校舎や古ぼけた体育館をみて高校時代を思い返していた。

私は高校時代自分で言うのもなんだが優等生であった。

日々の宿題に加えて塾の宿題、自分で買った問題集を毎日こなしていた。

平日はゆうに4,5時間は勉強していたし、部活も必死に取り組んでいた。

そのかいあって私はクラスでも成績はトップクラスだったし、所属していたテニス部では副キャプテンとして部員の練習メニューなどを決めていた。

今思えば、あの時の私は人生で一番輝いていたかもしれない。

「それに比べて今は・・・」

そう思ったとき、ふいに背後から手が伸びてきて私は胸をつかまれた。

「っつ!?」

驚きと恐怖で声が出ない。どうしよう。周りに誰かいないだろうか。

私があたりを見回しながら涙目になっていると、

「なんだよ、東雲、スキだらけじゃないか、」

聞きなれた声が頭上から聞こえてきた。

声の主は私の背後から前に回り込みしゃがんだ。

しゃがむとちょうど私の顔の前に見覚えのあるアイスブルーの瞳が見えた。

「なに泣いてんだよ。お子様だな。おっぱいもちっちゃいし。」

「もしかして、前原先生?」

私は唇を震わせながら訪ねると、

「やっとおもいだしたか、恩師の顔を覚えているのは偉いぞ。ちなみにお前の体はエロくないぞ。おっぱいもちっちゃいし。」

「それセクハラです。訴えますよ。」

「おー。いうようになったな。でも残念でしたー。おっぱい私の方が大きいので私の勝ちですー。」

「意味わからないです。自分のスタイルの良さを自慢したいようにしか聞こえません。」

「はいはい。しょうもない話はこれまでにして、何してんだこんなところで。」

(普通にしてたら美人でいい先生なのになあ)

私はそう思いつつ篠崎さんのことを先生に話した。

篠崎さんがタイムトラベラーであることや私が昔のロンドンに行ったことは信じてもらえないことを前提に一応話してみた。

先生は腕を組みながらじっと私の話に耳を傾けていた。

相槌をうたず、目もつむっているので最初は寝ているのかと思ってしまった。

最後まで話し終わると先生はアイスブルーの目を開けて私の方に視線を落とした。

「東雲さー。おまえ、思い込み激しすぎだろ?」

え。私が戸惑った表情でいると、

「その篠崎っていう人がお前を嫌ってる要素、お前の話を聞いた限り、一つもねーぞ。」

「でも、」

「おまえは昔からそういうところがあったからなー。」

何なら賭けてもいい。とまで先生は言った。

「おまえは嫌われてないよ。むしろ逆。」

先生は「私だけのおもちゃだと思っていたのに」だとかぶつぶついっていたが、

急に改まった表情で私の両肩に手を置き顔を近づけてきた。

「なんですか?」

「一つ聞きたいことがある」

先生の真剣な表情に私も息をのんだ。

「篠崎さんと私、どっちが美人?」

(なんなのこの人)

私はあきれながら先生の方が美人ですよと伝えたのだった。

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