第9話 働くって何

わたしはここ数日、もの思いに耽っていた。

わたしより年下の子どもたちが働いている姿を見て衝撃を受けたからだ。

悲しさやつらさもあったが、その根底にあったのは働くって何だろうと言う疑問であった。

今まで当たり前だと思っていたことがすべて疑問に変わっていく。

それは自分の存在意義さえ疑ってしまうような大きな衝撃であった。

子どもたちの様子を見たあと、篠崎さんはそろそろ帰らないとと言った。

そのあとは例の単語帳を使ってロンドンから日本まで帰ってきた。

オフィスの時計を見るともう定時に近かった。

篠崎さんはお疲れ様とだけ言ってそのまま帰って行った。

それからというもの、わたしの脳内にはロンドンの光景が頭から離れなかった。

篠崎さんはわたしに何を伝えたかったのだろうか。わたしははたらくことについて考えれば考えるほど、わからなくなるのであった。


考えぬいたあげく、わたしがだした結論は問題の原因を作った張本人である篠崎さんに直接聞くことであった。

わたしはオフィスで篠崎さんの来るのをいまかいまかと待ちわびていた。

篠崎さんは1日に1時間しか働かない超時短社員だ。朝一から来る時もあれば、お昼から来る時もある。わたしは密かに篠崎さんが何時から来て1時間はたらくのかを記録していた。

するとある一定の法則を見つけた。

だいたい来る時間は水曜日以降はお昼過ぎに来る可能性が高いということだ。

今日は木曜日だからその法則に当てはめ、またわたしの勘を合わせると14時頃には来るのではないかとよんでいた。


結局、その日篠崎さんが出社したのは16時であった。

私の予測は外れたものの、私は聞きたいことが山積みだったので気にせず篠崎さんに話しかけた。

「ごめんなさい。また今度にしてくれないかしら。」

篠崎さんはそれだけ言うとパソコンに向かい業務に取り掛かってしまう。

私はもやもやした気持ちを抑えきれなかったが、定時になったらもう一度聞いてみようと思った。

ところが、私がトイレに行っている間に篠崎さんは上がってしまった。

私嫌われているのかな。

私は涙目になりながら帰路に就いた。


私は考えがまとまらないまま電車に揺られていた。篠崎さんに嫌われる理由は思い当たらなかった。けれど、なんとなく嫌われているのではないかという確信があった。

私はまた泣きそうになった。

泣いているところを見られたくなかった私は窓の外に顔を向けた。

小高い丘の上に青色と白の大きな建物が見える。

私はふと我に返った。

その建物は私が通っていた高校だった。

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